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第9話 使役と召喚の違い

 召喚魔法の授業中。


「エルヴァリス先生! 使役と召喚の違いがわかりません。私は、お母さんを使役しているのですか? それとも召喚しているのですか?」


「メリシエルさんは、ネクロマンサーです。ネクロマンサーは、アンデッドを使役します。使役の基礎は、主従関係です。使役とは、相手を隷属させ、意のままに動かすことです。その相手は、ネクロマンサーであるあなたが勝手に決めることができます。とはいえ、加護の力が不足していれば、レイスのように高位のアンデッドを使役することはできません。加護の力次第ということです」


「私、お母さんのこと、隷属なんてさせてない。それに意のままに動かすなんて、嫌だよ」


「そうですね。メリシエルさんとお母様は、親子の絆で繋がっているようです。ただ、客観的には使役です。いざとなれば、お母様は、メリシエルさんの命令に背けません」


「……」


「次に召喚です。使役と異なり、召喚には、主従関係がありません。召喚するためには、召喚される相手との良好な関係が必要です。相手の合意がないと、召喚は失敗します。成功しても、召喚した相手は、こちらの命令に背くこともよくあります」


「えっと。私は、おじいちゃんのこと、召喚できる? 雁鉄のヴァリオンド」


 他の生徒たちが、改めて驚く。噂には聞いていたが、エリシエルは、あの雁鉄の子孫なのだ。そしてその伝説の騎士を「おじいちゃん」呼ばわりしている。


 メリシエルの家族は、母アレクサンドラしかいない。だからメリシエルにとって雁鉄は、大切な家族に加わってくれるかもしれない存在なのだ。すでに死んではいるけれど。


 母アレクサンドラは、16歳の時に父母を事故で亡くしていた。生活力のなさに漬け込まれ、村の有力者の二男と結婚させられている。アレクサンドラは「家名だけは残す」という条件で18歳で結婚し、19歳のときメリシエルを産んでいる。


 召喚魔法の担当教員、エルヴァリス(愛される者)が続ける。


「まず。いかに優れたネクロマンサーでも、魂を使役することはできません。魂そのものはアンデッドではないからです。使役とは、たとえ相手の魂が嫌がっていても、こちらのいうことを聞かせる力です。なので、魂だけの存在となっている雁鉄殿を、使役の形で呼び出すことは不可能です」


 あからさまにがっかりするメリシエル。


「それに。残念ながら、雁鉄殿は、すでに体を失っておいでです。レイスのような霊体もお持ちではありません。霊体とはいえ、ある意味で体なのです。魂が単独でできるのは、憑依する程度です。ですが憑依は、意識レベルでの一時的な融合に過ぎず、雁鉄殿の武力などを引き継ぐことはできません。そして憑依には、時間的な制限があります。場合にもよりますが、数分から、長くても10数分といったところでしょう」


「じゃあ、こっちの誰かが体を提供したら、そこに召喚できる?」


「憑依ではなく、召喚先としての体を提供するということですか?」


「そう。それなら、おじいちゃんとお話しできると思う」


「魂だけの存在を召喚する……考えたこともありませんでした。しかし、器となる体が提供されるなら、ありえますね」


「やった! 私、おじいちゃん、呼び出せるんだね!」


「いや、しかし。300年近く再生されずに冥府に残されている。雁鉄殿ほどの強大な魂を受け入れられる器など、まず存在しません。それに、受け入れられたとしても、雁鉄殿の武力を再現できるほどの筋力など、まず持ちえません」


「おじいちゃんの武力とかは、いいの。お話しできれば、それで十分」


「それでも、器が耐えられないでしょう。エリシエルさんであれば、おそらく、雁鉄殿の筋力には耐えられます。しかし魂の器となると、無理でしょう。器の加護が必要です」


「器の加護?」


「そう。多くの魂と呼応することができる器。他者の思いや願いを受け取れる器。大成する学者が持っていることが多いですね」


 ここで、ある生徒が声を上げた。


「あれ? そういえば、オルセリオンって、器の加護だったよな?」


「そうだけど? いや、僕の筋力じゃ無理だよ」


 いかにも学者になりそうな、オルセリオンと呼ばれた影の薄い少年が答えた。珍しい黒髪。この少年は、先日、ダークエルフのエルシアナと同様、アレクサンドラの声を聞くことができた、もう一人の生徒である。


「オルセリオンくん。その通りです。器としては可能性があっても、筋力が追いつきません。その状態で召喚しても、釣り合わない筋力が歪みとなって、オルセリオンくんの骨がすべて破壊されてしまうでしょう」


「じゃあ、憑依であきらめるしかないのか。おじいちゃん、誰かに憑依してもらえばいいの?」


「憑依は、偶発的です。憑依には細かい条件があるようで、いつでも誰にでも憑依できるわけではありません。そして憑依の条件は、まだ、よくわかっていないのです。憑依が起こっている場に居合わせる学者が少な過ぎて、データが取得できないからです」


「エルヴァリス先生。じゃあ、使役も、召喚も、憑依もダメということ? そんな。じゃあ私、おじいちゃんとお話しできない」


「召喚だけは、可能性が残されていますが……希望を持たない方が現実的でしょうね」



こうして、もう第9話までお読みいただきました。とても嬉しいです。ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


使役と召喚の違い。憑依。器の加護について描写しました。あくまでも、この物語の世界での話です。他の作品の定義を攻撃するような意図は全くありません。その点、重要です。ここで強調しておきたいです。


引き続き、よろしくお願い致します。

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