第80話 大陸戦争(後編)
アルメリア教国8万、ヴェラレン=サール5万。両軍は荒野で睨み合うばかりで、交戦状態に入るまで、かなりの時間を要した。
アルメリア教国の軍は、異様だった。
頼りとなる絶対神の加護持ちたちは、聖女エルシアナの周囲に、徹底的に呪いの防壁を結界として何重にも作り続けていた。
そして残る8万の軍勢は、跪き、聖女エルシアナへの祈りを捧げている。エルシアナの加護を、本来のそれよりもずっと高めるためだ。
敵兵とはいえ、ただ跪き、祈りを捧げる者を、殺害することはできない。むしろ、常に差別されてきたヴェラレン=サールの人々は、そういうことを気にする。
一番初めに気づいたのは、ナヴィアだった。
「メリシエル様! 聖女が、詠唱をしています! 長い、長い詠唱です! よくありません! よくありません! 厳しい、恐ろしい詠唱です!」
エルシアナが詠唱を終えた。それから古代エルフ語ではなく、標準語で、
「生きることこそ、罰である。この鉄槌は、赦しである」
と述べた。
わずか10歳のアレクサンドラが、母メリシエルに忠告する。
「メリシエル。決断の時です。エルシアナに迎合するか、私たちの呪いを完遂するか。どちらかを選びなさい。私は、どちらでも構いません」
その声を聞き終わらないうちに、メリシエルが天幕を後にする。
人間が、こんなにも早く動けるものだろうか。暴力を封印したはずのメリシエルは、次の瞬間、荒野を挟んで遠く離れていたはずの、聖女エルシアナの正面にいた。
「エルシアナ姉さん。ごめん」
メリシエルは、エルシアナの右肩から下を全て吹き飛ばしていた。しかしもうその時、エルシアナは、詠唱を終えていた。
「こちらこそ、ごめん。メリシエル。でも私は、あなたに石を投げつける、この世界を終わらせたかった」
「知ってたよ。姉さん。知ってた。わかってた。でも、間に合わなかった?」
「うん。ごめん。もう、発動してる」
「じゃあ、ここからは、私と一緒に戦ってくれる?」
「いいけど、無理よ。勝てない。一年の猶予は、あなたたちへの恐怖を、私への信仰に変えるため。それが、成った」
昔、粉砕したオルセリオンの右肩を治癒した魔法を、自らにかけるエルシアナ。
遅れて、オルセリオンがこの場に到着して、
「あーあ、痛そうだな。エルシアナ姉さん、久しぶり。短命種の僕が先に死ぬから、そのあとは、この右腕の義手、使ってね」
エルシアナは、呆れて
「あなたたち、随分と、余裕ね」
メリシエルは、少し考えて
「もう、十分、生きたから。最高の人生だった。あとは、どう終わらせるか。最後まで、本当の敵と戦って死にたい。オルセリオン様、姉様。一緒に、やってみようよ。私たちは、終わらせ方をこじらせただけ。でも、お互いのことを、愛してる。その真実は、永遠に変わらない」
第80話でした。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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さて。
エルシアナは、あれを発動させました。アルメリア教国の絶対神の信者を利用したのです。
引き続き、よろしくお願い致します。




