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第8話 A組への合流

 加護の効果調整スキルによって、メリシエルは、普通の少女のような体重になれる。また、筋力コントロールスキルも(大分)身につけ、物を壊すことなく生活できるようになった。


 メリシエルの教育全般を担当するセリオナール(導く者)、武術教官のタルウェン(戦う乙女)、礼儀作法の担当教官のセリヴァン(礼節の守護者)が集まっている。紅茶を飲みながら、


「メリシエル、そろそろ授業に出ても大丈夫だと思うのだけれど」


「筋力のコントロールは、まあ、大丈夫ね」


「貴族の姉弟に対する対応や、異種族への礼儀なども、ほぼ大丈夫だと思います」


「どうだい? メリシエルは、優秀かい?」


「もちろんよ。でも、彼女が優秀なのは、アレクサンドラがいてこそね。母親から離れた後も、同じように優秀であれるかは、未知数だと思う」


「まったく、同感です。礼儀作法に関する学習も、まず、アレクサンドラ様が先に全部マスターされてしまいます。それを後で、メリシエルに繰り返し教えておいでなのです。彼女がいない状態で、どこまで自分で頑張れるか」


 アレクサンドラは、過保護なレイスだった。



 夏休み明け、まだ暑さの残る9月。


 メリシエルはついに、初等科、1年A組にやってきた。


 生徒の数は、30名弱。そのクラスのほとんどが12〜13歳の人間である。


 クラスの中には、異種族の生徒も数名いる。異種族の場合は、そもそも年齢の概念が人間とは異なる。そのため、異種族の年齢はバラバラだ。


 メリシエルは、廊下で、担任であるセリオナールから名前を呼ばれるのを待っていた。


 しかし。


 すでに、1年A組の生徒たちは、廊下からただならぬ邪気が溢れているのを感じ取っていた。怯え始める生徒たち。気分が悪くなる生徒、さらに気を失いそうになる生徒もいる。


 どの学年でも、A組には最も優秀な生徒が集められている。それは、A組の生徒の多くが、強い加護の持ち主であることを意味する。


 もちろん、強い加護とはいえ、座っただけで椅子を破壊できるような生徒はいない。それは、かなり特別なことだ。


「では、メリシエル=サリオンドレル嬢。こちらへ」


 制服を着た、まだ幼い、可愛い少女だ。だが、とにかく恐ろしい。残暑に汗していた生徒たちから、すべての湿気が飛んだ。そして教室の中が、真冬のように寒くなっていく。


 屍の積み上げられた沼地に、薄い雪が降り積もっている。そこを強くて冷たい風が舞う。屍を喰らうアンデッドが、嫌な声を出しながら多数うろついている。


 その中心に。メリシエルがひとり、凛として屹立(きつりつ)している。


 そんなビジョンが、A組の生徒たちに広がる。怖い。しかし、美しい。経験したことのない感覚に、クラスの全員が戸惑っている。


「メリシエル=サリオンドレルです。9歳です。お兄様方、お姉様方。どうか、私のことを妹だと思って、可愛がってください。これから、よろしくお願いします」


 何度も練習した自己紹介。それが、A組にいた全員に伝わった。


 空気が、一気に浄化された。教室の温度も、夏の終わりらしくなる。汗が、戻ってくる。そうなってみると、メリシエルのことがまるで違って見える。


 ただひとり、健気に、不浄なものに抗っている高貴なる少女。そう見えた矢先——教室の後方から、メリシエルとは別の、悪辣としか言えない気配が感じられた。クラス全員が、後ろを見る。


 レイスがいる。彼女は腕組みをし、(あご)を少し威圧的に上げていた。


「うちの娘のこと、よろしくね。もしも、もしもよ。娘のこと、いじめたりしたら——」


 これからメリシエルの同級生になる、ある少年と少女。この2人だけには、アレクサンドラの声がはっきりと聞きとれた。


 ただ声は聞こえずとも、クラスの全員がアレクサンドラの姿を輪郭レベルでは認知できている。さすがA組だ。


「ちょっと、お母さん! そういうのやめてって言ったでしょ!」


 担任のセリオナールにも、アレクサンドラの声までは聞こえない。しかし、彼女が発するただならぬ空気だけは十分に感じ取れた。


「アレクサンドラ様! 生徒を威嚇するの、やめてもらえますか? そもそも、教室まではついてこない約束でしょう」


「ご、ごめんなさい。つい。娘がこうして学校に行けるなんて、嬉しくて。でも心配で」


 アレクサンドラの声が聞こえている生徒の一人。ダークエルフのエルシアナ(支柱たる女性)が、勇気を出して発言する。


「セリオナール先生! メリシエルさんのお母さん、謝っておいでです。メリシエルさんが、こうして学院の生徒になれたこと、喜んでいらっしゃいます!」


「エルシアナさん、ありがとう。アレクサンドラ様、約束通り、教室から出て行ってください。ここは、子どもたちだけがいていい場所です」


 すごすごと、教室を出ていくアレクサンドラ。王に命じられた仕事でもしようと考えている。その姿をみて、ダークエルフのエルシアナは、楽しそうにコロコロと笑った。


「これも、何かの縁だろう。メリシエルさん、エルシアナの隣に座りなさい」


 この二人は、ここから生涯の友となる。しかしまだ、その未来は、二人には見通せていない。そしてもう一人。アレクサンドラの声を聞くことができた少年についても、いずれ語ることになる。


 メリシエル。テレながら、エルシアナの隣に座る。そして、椅子を壊した。



こうして、第8話までお読みいただきました。ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


ダークエルフのエルシアナを登場させました。本当は、メリシエルのアナグラム(文字の順番を入れ替えて別の意味を作ること)にしたかったのですが、できませんでした。それでも、メリシエルと似てはいるけれど、どこか対照的という印象を持っていただけたらと考えています。


引き続き、よろしくお願い致します。

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