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第72話 パレード

 各国首脳は、サリオンドレル公国のイメージ回復に躍起になった。


 もちろん、大陸条約の改訂で、自国の独立組織が他国に与えた損害の賠償責任が生じることとなったからでもある。


 しかしそれ以上に、各国が、自国にいる審判の剣、そのメンバーの扱いに困っていることも大きかった。


 審判の剣は背後で教会と結託し、何かと正義を振りかざし、権力者を糾弾するのだ。そして、少なからぬ貴族が脅されていた。


 そうした中、ヴァルディス王国の現第一王子の婚約式が開かれることになった。多くの民衆が見る、パレードがある。


 パレードは、民衆にも人気のイベントだ。各国、色とりどりの文化が見られる。新聞などでも、異国情緒が、大いに話題となる。


 サリオンドレル公国も、パレードの一翼を担い、イメージの刷新に努めて欲しい。そういう話になった。


 来賓として、サリオンドレル公国から、メリシエル(35歳)が、アレクサンドラ(7歳)とエルシアナ(12歳に見えるが約160歳)が選ばれた。


 女性と子どもで固めれば、公国の「柔らかい感じ」をアピールできるということだったから。


 もちろん、メリシエルたちは、そう考えなかった。ただ、大事な外交だ。各国も審判の剣の扱いに困っている。協力はしないといけない。


 なにか、起こるだろうと、覚悟はしていた。メリシエルは、エルシアナに対して、何があっても民衆を攻撃しないよう、何度も釘を刺していた。


 パレードの最中。


 上質な黒檀で作られた馬車。黒という一般には忌避される色が、こんなにも美しい。民衆の目も、釘付けとなっている。


 そこから、黒いワンピースを着、銀製のティアラをつけた公妃メリシエルが手を振っている。隣には、薄青いワンピースを着た公女アレクサンドラがいる。


 公妃姉君エルシアナは薄灰色に白のレースがあしらわれたワンピースを着ている。エルシアナも、無理をして笑顔を作っていた。


 華やかなイメージで、馬車はゆっくりと進んでいた。


 しかし。


 黒い馬車を、かつて聖騎士だったエリオネス=ラフェイルが、両手を横に広げて止めた。彼女は、小さい声で「ごめんなさい」と連呼している。


 彼女はこのとき、唯一の身内である母を殺すと、審判の剣から脅されていた。


 準備されていた多数の石が、美しい馬車に投げつけられた。


 カツ、ガツッ、ガツッ、ガン!


「姉さん。アレクサンドラをよろしく。攻撃しちゃ、ダメだからね」


 メリシエルはそう言って、馬車を降りた。


 民衆が群がってきて、メリシエルを殴る。蹴る。強靭なメリシエルに、肉体的なダメージはない。それでも、血は出る。服も、破れる。


 オルセリオンにもらった、大切なティアラも強奪された。


「そ、それはだめ」


 言葉は、届かない。エルシアナは、目を背けていた。しかしアレクサンドラは、燃えるような目で、馬車からその光景を見ている。


 何をしても効かないメリシエルに腹をたて、短剣で切り付けようとする民衆。それでも、メリシエルには刃が通らない。


 仕方なく、民衆はメリシエルの美しい銀髪を取り、地面に跪かせた。そして、笑いながらメリシエルの銀髪を切断した。


 服を切り刻もうとする輩まで出てきた。衛兵も、ニヤニヤしているだけで、そんな民衆を止めようともしない。


 ついに、7歳のアレクサンドラが、エルシアナに拡声の魔法を要求した。そして、馬車を降りる。


 澄んだ、まっすぐな少女の声が、ヴァルディスの王都に響き渡る。


「あなたたち。無抵抗の女性に、そんなことしていいの?」


 少女が、ゆっくりと周囲を見渡した。


「あなた、名を名乗りなさい。ほら、名乗りなさいよ?」


「私は、アレクサンドラ=サリオンドレル。あなたは?」


「ほら、名乗りなさい。家の名において、私のお母さんを蹴りなさい。殴りなさい」


「名乗りなさい! 卑怯者! 名乗れ!」


 7歳の女児の扱いに、戸惑う民衆。


「お母さんの代わりに、私を殴りなさい! 蹴りなさい! ただし、名を名乗りなさい! ほら、やりなさいよ! やりなさい!」


「私のお母さんは、この世界から戦争をなくした人です。では、あなたは? そうして女性の腹を蹴る、あなたの成し遂げたことは?」


「あなた方は、私のお母さんが憎いんじゃない。上手くいかなかった自分の人生が憎いんだ。それを忘れたいから、私のお母さんを蹴るんだ!」


「卑怯者! 私は、サリオンドレルだっ! 名乗れっ!」


 民衆の一人が、ついにアレクサンドラを殴りにかかった。それに対してピクリとも動かず、ただ目を瞑って、暴力を受け入れようとするアレクサンドラ。


 アレクサンドラは、母とは違い、物理攻撃を跳ね返すような力はない。それでも、名を名乗れぬものが、偉大な母を殴ることが許せない。


 死んでもいいと、7歳の少女が母の前に身を挺している。


 メリシエルは、当然、娘を守れる。ただ、可能な限り暴力は使いたくない。割って入る、ギリギリのタイミングを見ていた。


 まだ余裕がある。メリシエルがそう思っていたとき、エリオネス=ラフェイルが間に入った。


 エリオネスは代わりに殴られて、


「人質の母を殺しなさい! 好きにすればいい! こんなことが、許されていいはずがありません!」


 メリシエルは、平気な顔をして立ち上がる。ところどころ破けたワンピースをはたきながら、


「髪、ショートになっちゃったな。ティアラもなくしちゃった。オルセリオン様、がっかりするだろうな……あ、聖騎士様、ありがとうございました。ごめんなさい、ご迷惑をおかけして」


 メリシエルは、アレクサンドラに「頑張ったわね。えらいよ」と声をかけた。そのまま、娘の背を押し、何事もなかったかのように馬車に戻ろうとする。


 エリオネスは、そんな母子の前に跪いた。


「恥ずかしながら、名乗らせてください。エリオネス=ラフェイルと申します」


「メリシエル閣下。そして、勇敢なるアレクサンドラ殿下。私、エリオネス=ラフェイルは、サリオンドレル家に、永遠の忠誠を誓います」


「だめ。お母様が人質にされているのでしょう? お母様を、お守りなさい」


「もう、いいんです。ここで、こうしないと。ラフェイル家の名に傷が付きます。英霊に、顔向けできません。母も、そう考えてくれる人です。悔いはありません。どうか。どうか、母の命ではなく、ラフェイル家の名誉を守らせてください。私は、せめて、自分の名を名乗れる人間でありたいのです!」



第6章の終わり、第72話でした。お読みいただき、光栄です。ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


メリシエルは、一般の物理攻撃程度であれば、なんともありません。それを利用して、非暴力を貫くことで、サリオンドレルの印象を変えようとしています。しかしアレクサンドラは、普通の少女です。それにも関わらず、こういう行動をします。メリシエルは、そんな娘の勇気ある行動を、心から褒めています。


引き続き、よろしくお願い致します。

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