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第71話 ヴェラレン=サール

 黒薔薇歴20年。歴史の転換点である。


 メリシエル34歳、オルセリオン37歳。アレクサンドラ5歳、ヴァリオンド2歳。そしてエルシアナ約160歳のころ。


 メリシエルとオルセリオンは、子育てとアレクサンドラ初等学院の運営に尽力していた。エルシアナは、自称、遊軍。多様な案件に関わる。


 ヴァンパイア・クイーンのナヴィアは公国宰相として、サリオンドレル公国の政治を仕切っていた。なお神龍は、相変わらず寝てばかり。


 アタル=シリストール鉱山(45話)を仕切るドワーフのグロムヴァルド家(鉄の契約)、ダークエルフで、大陸全土にスープ・パスタのチェーンを展開するカルカトス家(40話)、そしてヴァルディス王国の王家、分家になるヴァルディス家(移住してから多数の養子を迎え入れていた)が、サリオンドレル公国の三大貴族として、公国の確かな発展を支えていた。


 そんな中。


 アレクサンドラを筆頭とする5歳児たちが、グロムヴァルド家に訴えかけ、地中への冒険を主張した。誰もが、とても5歳児とは思えない教養を身につけている。ドワーフの礼儀作法まで、理解していた。


 気を良くしたドワーフほど、面倒な存在はない。サリオンドレル公国の5歳児連盟に協力するという建前を超えて、地中の探索に本気になっていく。


 地下4km掘り進んだところで、その遺跡は発掘された。歓喜を表現するドワーフたちとは対照的に、無表情でボタンというボタンを押しまくる5歳児たち。彼らはそうして、失われた古代の技術、特に医療技術を習得して行った。


 そうして、治癒魔法では回復しないとされた病気も、5歳児たちによって治癒可能な病気になっていった。サリオンドレル公国は、重い病気に悩む家族が移住する、新たな「不浄の地」としての地位を確立し始める。


 強力な加護、筋力と魔法による、人を傷つける技術。これに対して加護を拒否し、正当な科学によって人を癒す技術。いつしか薬師や魔道具の技師が、サリオンドレル公国を目指すようになった。


——医療大国、サリオンドレル。


 それは、家族に重い病気を持つ「不浄なる者ども」にとってのみ、救いの言葉になる。カラスが多く、少し不穏な文化を持つことにさえ我慢できれば、温泉もあるし、過ごしやすい環境だった。


 そして何より、不浄であるという理由で、石を投げるものがいない。むしろ、生きるとは不浄であることだと認識する人々の国である。


 心身に障害を持つもの。その家族。ダークエルフ。家族に犯罪者を持つもの。犯罪被害者。そうした人々が、安心して暮らせる大陸で唯一の公国となった。


 この頃から、サリオンドレル公国は、「ヴェラレン=サール(Velaren’thar)」すなわち、古代エルフ語で「石を投げられし者たちの国」と別称で呼ばれ始めた。迫害された民が自分たちで築く、沈黙と誇りの国という意味になる。


——医療大国、ヴェラレン=サール。


 現代では、こちらの名で呼ばれることの方が多い。むしろ、サリオンドレルの名は、この国の有力貴族としてのみ、知られているだろう。


 それは、名に神が宿るとされた時代。


 そんな時代における、神々からサリオンドレルへのささやかな攻撃だったのかもしれない。しかし、神々は、負ける。たった一組の母子をつなぐ愛によって。



第71話でした。お読みいただき、ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


いよいよ、アレクサンドラによる、輪廻を超える神殺しが浸透します。神々でも治療できない、いや、治療しない病気でも、治療可能になっていきます。


引き続き、よろしくお願い致します。

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