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第7話 サリオンドレル家

 謁見での一件があった後。


 王命により、なぜ、サリオンドレル家の爵位が維持されていないのか、調査が進められた。


 雁鉄(がんてつ)のヴァリオンドは、およそ280年前に、王の盾となり命を落とした。記録には、享年68歳とある。その年齢まで、前線に立てるだけの力があった。


 死後、雁鉄の功績を讃え、侯爵(辺境や要衝を治める高位貴族 / 軍事的役割が大きい)の爵位が与えられた。サリオンドレル家は、辺境の地を与えられ、そこの守護にあたった。


 そして、およそ210年前。この辺境の地が飢饉に見舞われたとき。当時のサリオンドレル家の当主は、家財の全てを投げ打って食糧を調達し、民に配った。


 それが原因となり財政が逼迫した。サリオンドレル家は、貴族としての社交を維持できなくなった。煌びやかな社交ではなく、民の胃袋を優先したのだ。そして、爵位を王家に返上していた。


 爵位の返上は、名誉なことではない。ひっそりと進められた。滅多に語るべきことでもない。いつしか、当のサリオンドレル家の身内からも、かつて貴族だった事実が忘れ去られた。


 サリオンドレルとは「影に隠された高貴」を意味する。文字通り、影に隠されていたのだ。そういう運命もあったのかもしれない。


 王は、議会で、サリオンドレル家の爵位復活を提案した。議員たちは満場一致で賛同したものの、懸念点も1つ挙がった。


 今のサリオンドレル家に、領地を経営する能力があるのかと。アレクサンドラは、一応、死んでいる。そのため、優れた加護を持つとはいえ、まだ9歳の少女が当主ということになる。


 王の使者が、手紙で、この一部始終を伝えてきた。それへの返信を、アレクサンドラの指示のもと、メリシエルが拙い字で手紙に書いている。


 途中、また何本かペンをダメにした。しかし、以前ほどではない。メリシエルは、加護の効果調整にも大分慣れてきている。ちゃんと授業に出られる日も近い。


「ええと。謹んで? 辞退させて? いただきます?」


 アレクサンドラが「フンス」と腕を組んでうなずく。


「お母さん、『いただきます』って、ご飯食べる時のでしょ? これ、間違ってない?」


 王のもとに、返信の手紙が届いた。ひどい字だ。ただ、普段は美しい字しか見ることのない王にとって、それが返って新鮮だった。


 手紙には、雁鉄はともかく、自分たちには何の功績もないことが強調されていた。むしろ橋や馬車、ドアノブや食器を壊すような家にすぎない。ゆえに、辞退したいと。

 

「さすがは、雁鉄殿の子孫だ。形ばかりの名誉など、むしろ恥とするか。ふむ。功績があれば良いのだな?」


 王は、アレクサンドラだけを王宮に呼び出した。アレクサンドラは死んでからずっと、一度も、メリシエルの側を離れたことがない。なので単独での呼び出しを、ひどく嫌がっていた。


 しかし、この王国の最終兵器ともなりうるメリシエルには、表に裏に、第一級の護衛がついている。そう説得され、渋々、アレクサンドラは、今、王の間にいる。


「アレクサンドラよ。よくきてくれた。少し話がしたい」


「陛下。私のような下賎、かつ不浄なものとお話などしてはなりません」


「何をいうか。雁鉄殿の子孫であるそなたが、自らを卑下するにも程があろう」


「もったいないお言葉です」


「ときに、メリシエルはどうしている?」


「最近は、ずっと『雁鉄のヴァリオンド』の絵本を読んでおります。そういえば昨日、もっと大人向けの英雄伝を読みたいとせがまれました」


「アレクサンドラは、メリシエルのことなら、ちゃんと話すのだな」


 赤くなるアレクサンドラ。まるで人間だ。


「アレクサンドラ。そなたに頼みたいことがある」


「なんなりと。ただし、メリシエルと離れるようなことは、したくありません」


「うーん、そう言われてしまうと頼みにくいのだが」


「お頼みごとの内容次第です。失礼ながら、死んでいる私は王国の臣民ではございません。ですから、王命といえども従う義務はございません」


 アレクサンドラは、これ以上、王宮にいたくなかった。メリシエルが心配なのだ。しかしその真意は、真言の加護を持った王には筒抜けである。


「すまないな。出来るだけ早く、この会合を終わらせる。メリシエルが心配なのであろう」


 アレクサンドラは、こんなにもあっさり自分の意図が王に伝わってしまうことに驚く。


「アレクサンドラよ。この王都で、大規模な不正が行われている。経済的なものだ。その黒幕が誰であるかは、私の加護の力でわかっている。しかし黒幕は尻尾をつかませてくれぬのだ」


「なるほど。一般には姿が見えず、壁も通り抜けられる私に、不正の証拠を見つけてこいとおっしゃるのですね?」


「そうだ。この不正が暴ければ、多くの民が助かる。巻き込まれている人々も解放できる。これは、そなたにしかできない仕事だ」


 多くの民が助かる。


 その言葉に、サリオンドレル家の血がたぎる。いや、レイスだから血はないのだが。王は、アレクサンドラの表情から、それを見抜いた。


——サリオンドレルの血は、真に高貴である。


「わかりました。メリシエルの護衛を増員するという条件で、そのお仕事、引き受けさせていただきます」



第7話までお読みいただきました。とても嬉しいです。ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


アレクサンドラも、変わっていきます。自分の血に(血はないのですが)誇り高きものが流れていることを、嬉しく感じています。王に対しても、はっきりと発言ができるようになりました。雁鉄の魂を、一度、その身に憑依させたからかもしれません。


引き続き、よろしくお願い致します。

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