第66話 加護を持たない子ども
メリシエルは、体温が低すぎて、妊娠しにくいと医師から言われていた。
黒薔薇歴14年。メリシエル28歳、オルセリオン31歳のとき。
メリシエルが、妊娠した。
メリシエルには、当然、気になることがある。ただ、もし違ったらと思うと、知るのが怖い。
妊娠3ヶ月を超えたころ。意を決したメリシエルは、オルセリオンを連れて黒龍キセノクランのところを訪れた。しかし、メリシエル。本当に聞きたいことは聞けない。
黒竜は、それを察した。
「メリシエルちゃん。知りたいんでしょ? 教えてあげるよ」
「な、なんのことですか?」
「大丈夫よ。聞いて、大丈夫。いい気分になる方の答えよ」
メリシエルは、嬉しさのあまり、泣き崩れた。
「泣き虫ね。でも、ちょっとその気持ち、わかる。ね、ネンヴェリエル」(47話)
オルセリオンが、それに答える。
「はい、キセノクラン様。お姉さん。よくわかります」
メリシエルの子宮には、アレクサンドラの魂がいた。アレクサンドラの魂は、約束通り、メリシエルの子どもとして再生したのである。
「あら? でも、アレクサンドラちゃん。面白いこと、したみたいね」
「え、なんですか? お母さん、何か問題があるんですか?」
「加護がない。アレクサンドラちゃん、加護を受け取るの拒否したみたい。こんな神殺しの方法、あったのね。さすが、アレクサンドラちゃん。やることが魔王ね」
そうしてアレクサンドラは、この世界で初めて「加護を持たない人間」として誕生した。
加護を持たないため、その名に神は宿らない。加護を持たないため、特殊な能力もない。アレクサンドラは、魂が再生される時、そんなものいらないと、強く願ったのかもしれない。
それでもメリシエルは、お腹の中の彼女に、アレクサンドラと名付けた。しかしその名の通り「守護者」として運命付けられることはない。アレクサンドラが生きたいように生きる。
魔王が、加護のない人間を妊娠した。当然、教会が噛みついてきた。
曰く、やはりサリオンドレル公国は、やはり悪魔の国であると。魔王の子に加護がないのは、神に拒絶されるほどの存在だからだと。
この教会によるサリオンドレル公国批判は、審判の剣の活動を活性化させた。失業した剣士や魔法使いたちが、属性によらず、続々と審判の剣に参加していった。
裏では、教会が審判の剣に対して資金提供をしていた。
そんな世界の盛り上がりとは無関係に、メリシエルは幸福だった。そして妊娠8ヶ月になるころ、メリシエルからも加護が消えた。
メリシエルの体温が通常の人間のようになった。うっかりして椅子を壊すこともない。一切の魔法が使えなくなった。ただ、加護が消えても、最強の筋力は残っている。
新聞に、審判の剣への入団希望者の募集広告が掲載され始めたころ。
前世の記憶を持たないアレクサンドラが、現世に女児として戻ってきた(オルセリオンは、密かに、男児だったら名前どうしようと焦っていた)。
アレクサンドラによる、歴史を変える神殺しは、ここから始まる。
第66話でした。お読みいただき、ありがとうございます。嬉しいです。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
アレクサンドラによる神殺しが始まります。誰が本当の敵であるのか、それぞれの立場で考え方が違います。ただ、アレクサンドラは、神を許せない。神を呪っていたのです。
引き続き、よろしくお願い致します。




