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第65話 神託の正義

 エルシアナが、ヴァルディス王国で話題の記事を手にしている。


「これが、審判の剣のリーダーだってさ」


 聖騎士エリオネス=ラフェイル。古代エルフ語で「神託の正義」または「癒すために断罪する」という意味になる。


 ダグナダイン王国は「最後の戦争」で敗れ、現在は、ヴァルディス王国に併合されている。


 ダグナダイン王国から、その戦争に参戦し、命を落とした貴族がいた。その貴族の娘が、聖騎士エリオネス=ラフェイル。17歳になる美しい少女。


 少女は、多くの民衆の前で、流れる涙を拭きもせず「戦争、反対!」と叫んだ。記事には、この時の演説全文が掲載されていた。



——サリオンドレル公国よ。


 かつて聖契により盟約を結び、我らと共に神の秩序を護ると誓った国よ。だがいま、汝の地には魔の瘴気が満ち、夜の空には黒い翼が翔け、民の心には嘘と快楽が巣くっている。


 神は、すでにその沈黙によって汝を見放されたのだ。


 私、聖騎士エリオネス=ラフェイルは、主の御名において宣言する。サリオンドレルはもはや人の国にあらず。その王は闇と契りし背信者、その民は沈黙の罪人。


 そして、その沈黙こそが、最も深い背徳である。


 正義とは、涙ではない。赦しではない。正義とは、刃であり、火であり、秩序を取り戻す力である。我らはその刃を、汝の腐敗に突き立てねばならぬ。


 主の沈黙が続くのは、われらが行動を怠っているからだ。ならば今こそ、主の代行者として我らが裁きを執行しよう。


 サリオンドレルよ。


 汝は豊かさを誇りながら、神を忘れ、正義を商い、愛を穢した。その金と香の薫りは、もはや供物ではなく、悪魔への礼賛である。


 汝らが築いた聖堂は、祈りの場ではなく、虚飾の牢獄だ。汝らが掲げる旗は、王の印ではなく、堕落の印章だ。


 わたしは赦さぬ。なぜなら、赦しは腐敗の始まりだからだ。わたしは信じる。神の正義は常に痛みを伴うということを。だがその痛みこそ、再生の印である。


 すべての剣に命ず。サリオンドレルに向けて抜け。すべての旗に命ず。魔を祓う風に翻れ。すべての心に命ず。恐れるな。これは懲罰ではない。救済である。


 サリオンドレルよ、聴け。わたしはおまえたちを滅ぼすために来たのではない。おまえたちを神に還すために来たのだ。


 正義に疑いはない。罪に慈悲はない。光に影はない。それが、この世界を保つ唯一の真理である。


——主の御名において。サリオンドレル公国、その浄化を開始する。



 もはや、パフォーマンスではない。狂気の様相を示していた。


 エルシアナがうんざりして加える。


「戦争の禁止を勝ち取ったのは、サリオンドレルなのに。これじゃあ、何のためにお母さんは輪廻に帰ったの?」



第65話でした。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


正義は、容易に狂気へとエスカレします。自分の人生に感じる不満の矛先を、仮想の悪に向けるのです。実際に、こういうことは、よくある話だったりもしますよね。


引き続き、よろしくお願い致します。

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