第65話 神託の正義
エルシアナが、ヴァルディス王国で話題の記事を手にしている。
「これが、審判の剣のリーダーだってさ」
聖騎士エリオネス=ラフェイル。古代エルフ語で「神託の正義」または「癒すために断罪する」という意味になる。
ダグナダイン王国は「最後の戦争」で敗れ、現在は、ヴァルディス王国に併合されている。
ダグナダイン王国から、その戦争に参戦し、命を落とした貴族がいた。その貴族の娘が、聖騎士エリオネス=ラフェイル。17歳になる美しい少女。
少女は、多くの民衆の前で、流れる涙を拭きもせず「戦争、反対!」と叫んだ。記事には、この時の演説全文が掲載されていた。
◇
——サリオンドレル公国よ。
かつて聖契により盟約を結び、我らと共に神の秩序を護ると誓った国よ。だがいま、汝の地には魔の瘴気が満ち、夜の空には黒い翼が翔け、民の心には嘘と快楽が巣くっている。
神は、すでにその沈黙によって汝を見放されたのだ。
私、聖騎士エリオネス=ラフェイルは、主の御名において宣言する。サリオンドレルはもはや人の国にあらず。その王は闇と契りし背信者、その民は沈黙の罪人。
そして、その沈黙こそが、最も深い背徳である。
正義とは、涙ではない。赦しではない。正義とは、刃であり、火であり、秩序を取り戻す力である。我らはその刃を、汝の腐敗に突き立てねばならぬ。
主の沈黙が続くのは、われらが行動を怠っているからだ。ならば今こそ、主の代行者として我らが裁きを執行しよう。
サリオンドレルよ。
汝は豊かさを誇りながら、神を忘れ、正義を商い、愛を穢した。その金と香の薫りは、もはや供物ではなく、悪魔への礼賛である。
汝らが築いた聖堂は、祈りの場ではなく、虚飾の牢獄だ。汝らが掲げる旗は、王の印ではなく、堕落の印章だ。
わたしは赦さぬ。なぜなら、赦しは腐敗の始まりだからだ。わたしは信じる。神の正義は常に痛みを伴うということを。だがその痛みこそ、再生の印である。
すべての剣に命ず。サリオンドレルに向けて抜け。すべての旗に命ず。魔を祓う風に翻れ。すべての心に命ず。恐れるな。これは懲罰ではない。救済である。
サリオンドレルよ、聴け。わたしはおまえたちを滅ぼすために来たのではない。おまえたちを神に還すために来たのだ。
正義に疑いはない。罪に慈悲はない。光に影はない。それが、この世界を保つ唯一の真理である。
——主の御名において。サリオンドレル公国、その浄化を開始する。
◇
もはや、パフォーマンスではない。狂気の様相を示していた。
エルシアナがうんざりして加える。
「戦争の禁止を勝ち取ったのは、サリオンドレルなのに。これじゃあ、何のためにお母さんは輪廻に帰ったの?」
第65話でした。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
正義は、容易に狂気へとエスカレします。自分の人生に感じる不満の矛先を、仮想の悪に向けるのです。実際に、こういうことは、よくある話だったりもしますよね。
引き続き、よろしくお願い致します。




