第63話 徐々に変化する世界
戦争の禁止は、世界の空気を変えていた。
剣を振ること、魔法を使えることの社会的な価値が下がったのだ。
強い加護を持ち、人間離れした筋力があっても、肉体労働にしか就けない。不思議な魔法を使えても、大道芸人くらいしかやれない。
確かに、治癒魔法や便利な生活階梯魔法は重宝する。しかし治癒魔法は薬師と競合し、生活階梯魔法は魔道具と競合する。必ずしも、それが魔法である必要はない。
なるほど、危険な魔物の討伐は、重要だ。それで、戦争がなくなって職にあぶれた兵士たちが大量に冒険者ギルドに押し寄せ、冒険者登録をした。
結果として、冒険者ギルドへの魔物討伐の依頼数に対して、実力のある冒険者の数が大きく上回る状況ができた。
朝から、冒険者ギルドの前には、腹を空かせた冒険者の長い列ができる。オープンと同時に、掲示板に貼ってある討伐依頼の奪い合いが起こる。
もう、冒険者の時代でもなかった。
そうして。
人を殺すための剣や魔法ではなく、食べること、楽しむことの価値が上がっていく。
シェフやパテシエとして美味しい料理を提供できる人が尊敬される。物語や伝説を執筆できる作家がもてはやされる。旅行記も、好まれるようになった。
この頃から、サリオンドレル公国の風向きが、少しおかしくなってきた。
流行りの物語の多くが、聖なる正義を題材としていた。聖なる正義と対比されるのは、いつだって不浄なる悪である。
そういう「わかりやすさ」が、世界から求められていた。
はじめは、わずかな変化であった。
黒薔薇の街から、闇属性以外の人が、国外に引っ越していくことが増えた。逆に、大陸の孤児院から初等学院に移籍してくる子どもの数が減った。
サリオンドレル公国は、闇属性の国として単純化され、少しずつではあっても、多様性が失われていった。
観光も、お化け屋敷的なものばかりを期待される。公国に行けば、死霊に会えるよ、と。どうにも、気分が悪い。
振り返れば、これらは危険な変化だった。
ただ、サリオンドレル公国の当事者たちは、こうした世界の変化に気づくのが遅れてしまった。
第63話でした。お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
世界の変化は、ゆっくりとですが、大きいものでした。この変化の着地は、どうなるでしょう。なんだか、嫌な予感がします。
引き続き、よろしくお願い致します。




