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第61話 喪失と矛盾

 魔王アレクサンドラが、自ら、いなくなった。


 この事実は、「この世界から本当に戦争がなくなるかもしれない」という大きな希望の象徴となった。


 アレクサンドラが引き起こした「ミリアスの虐殺」も、いつしか「ミリアスの悲劇」となり、そして「ミリアスの奇跡」と呼び名が変わった。


 大陸に平和をもたらすために、自ら輪廻へと帰ったアレクサンドラ。彼女の墓を、畏怖の念とともに訪れる観光客も増えた。彼女こそ、勇者だと讃えられた。


 もう、アレクサンドラのことを魔王と呼ぶ者はない。世界のために、身を引く魔王などいるはずがないからだ。


 メリシエルも、改めて自分も母のようにありたいと願うようになった。


 母の墓標の前に立つと、まだ泣いてしまう。けれどそれは、悲しみからではない。母のような存在が生じ得る、この世界への希望が強く感じられるからだ。


 メリシエルは、母との別れの後、オルセリオンに甘えるようになった。母から得ていた救いがなくなって、それを埋め合わせたいと感じるからかもしれない。


 しかし、オルセリオンは母の代わりではない。オルセリオンに甘える度に、それがはっきりと感じられる。母の喪失が、返って強調される。


 けれどその喪失は、向き合うべき喪失だった。


 オルセリオンは、そんなメリシエルの覚悟が認識できる。メリシエルをしっかりと抱きしめ、ゆっくり優しく頭を撫でる。


 オルセリオンは、改めて、自分はこういう時間を過ごすために生きているのだと噛み締める。だから、こうしてメリシエルの頭を触っている指先に集中する。


 最大の集中を指先に込める。髪の一本一本の形の違いまで認識しようとする。それ以外のことに、意識が向かないように細心の注意を払う。


 丁寧に。丁寧に。


 オルセリオンは、メリシエルの髪に触れながら、愛とは何かを考えていた。アレクサンドラの示した深い愛と、自分がこうしてメリシエルに感じている愛は、どこか違う。


 どこか違うけれど。どちらも、これ以上に大切なことはないとわかる。


「ねえ、メリシエル。こういう時間のために、僕は生きてるって思う」


 オルセリオンは、感じていることを、そのまま口にしてみた。


「うん。私も、そう思うよ。このまま、死んじゃってもいい」


「なんだか、完成してる。そう感じる。ああ、そうか。ここだけ矛盾がないのかもしれない」


「そうだ。そう思うよ。矛盾してない。ここだけ、迷いがない。大切。白と黒とか、光と闇とか、そういのがない。おかあさんのこととか、あなたのこととか、迷いがない。大切。矛盾がない。そうだ。そうだよ」


「生きるってことはさ。この矛盾のない、嬉しくて満たされた状態を知った上でさ。その上で、矛盾に飛び込んでいくってことかな?」


「おかあさんが、教えてくれたんだ。これを、おかあ、さ、んが……」


 メリシエルは、また、泣いてしまう。大切だった。そこだけ矛盾がないから、こんなにも大切だったのだ。


 アレクサンドラは、オルセリオンがいるから、メリシエルを置いて、この世界を後にした。矛盾のない基地があるから、後にできたのだと、わかる。


「光があるから、惑わされるんだ。でも、大切なことって、光がなくてもそこにある。闇の中だって、わかる。光も闇も、関係ない。大切なこと」


「オルセリオン様。あなたが、好き。好きなの」



第6章の始まり、第61話でした。お読みいただき、ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


アレクサンドラの喪失は、苦しいです。同時に、そういう喪失からしか見えてこないこともあるのだと思います。早く、元気になってもらいたいです。


引き続き、よろしくお願い致します。

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