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第58話 アレクサンドラの決断

 黒薔薇歴11年3月。


 黒龍キセノクランがいるベランダにて。


 アレクサンドラが、サリオンドレル公国の中枢たる、オルセリオン(+雁鉄)、メリシエル、エルミアナ、勇者サリュ、ナヴィア、トマス、使用人エリックとパトリシア。そして、相談役オルフェリウスまで呼び出した。


 重要な話があるのだと言う。


 黒龍が、話を始める。


「みんな。もうわかってると思うけど。アレクサンドラちゃんが、自分の意思で、輪廻に戻りたいんだってさ」


 アレクサンドラが続ける。


「キセノクラン様、ありがとうございます。話しやすくなりました」


「いいのよ、気にしないで」


「みんな。私の名前が、大陸軍縮会議の危険人物リストのトップに掲載されてるの、知ってるよね。で、備考欄には、メリシエルの加護が切れると暴走するって事実まで書かれてる」


「これってさ。加護キャンセラーが常時発動している世界では、私が最大の平和リスクってことだよね? 私が、一番、危ない。実際、魔王だし。誰のコントロールも効かない魔王って、怖すぎでしょ?」


「だからね。私、そろそろ成仏しようと思うの。メリシエルの使役から離れる。それで輪廻に帰ろうかなって」


 メリシエルは、このベランダに来た時点から、いやそのずっと前から泣いていた。この話になることが、もちろん、わかっていたから。


「そんなの、ダメに決まってるでしょ!」


「メリシエル。あなたは、サリオンドレルなのよ。自分のことではなく、他人のことを優先する。勇気が、その勇気だけが、他の人よりも良い生活をしていられる正当性なの」


「じゃあ、サリオンドレルの名前を捨ててもいい! そんなものより、おかあさんの方が大切!」


「私が大嫌いな、冥府の神様のこと、思い出して。彼は、奥様の魂を解放した。それは、彼が奥様のこと、本当に愛していたから。辛いことだけど、自分じゃなくて、愛する人の輪廻を大事にしたから。だから、オルセリオンがいるのよ? あなたにとって一番大切な人が」


「……」


「いい? 冥府の神様みたいな、あんな最悪な奴でさえ。神様でさえ、自分よりも愛する人のことを優先できるの。あなたは、どう? メリシエル。あなたは、自分のために、私の魂を束縛しようとしてる。そんなの、私が大好きなサリオンドレルじゃない。神様以下の存在よ」


「……」


「辛いのは、私も同じ。でも私だって、学校に行ってみたい。スープ・パスタ食べてみたい。恋だって、してみたい。そういう私の希望を無視して、メリシエル。あなたは、私のこと、ずっと現世に束縛するの?」


「お、おかあさん……」


「いい? メリシエル。あなたは、ずっと私とつながってる。私が成仏しても、あなたはきっと『おかあさんなら、なんて言うかな』って考えてくれるでしょ? それは、私がずっと、あなたの中で生きてるってこと」


「……」


「エルシアナも、同じよ? あなた、これから何千年も生きるんでしょ? あなたは、オルセリオンが死んだら、サリオンドレルの当主となり、公国のトップとして、ずっといるのよ」


「え、私、そんなこと考えてないよ」


「ダメよ。ちゃんと、考えて。私たちのこと、ずっと忘れないで。歴史に残して。私たちが何を考え、何を実行し、どんな失敗をしたか。全部、記録に残して。それが、あなたに課せられた運命。勝手に、課せられた運命なの。でも安心して。私がきっと、そういう勝手に運命を決める神様を、いつか倒してみせる」


 沈黙。


「メリシエル。あなたは、私を2度、殺すのよ。1度目は、自分が生きるため。そして2度目は、世界を平和のうちに収めるため。本当に愛するものを犠牲にしてでも、世界を守る。それが、サリオンドレル。王の器。あなたは、世界の王になるのよ」


「私は、あなたを、ネクロマンサーに産んでしまったことを、ずっと後悔してた。でも、今は違う。世界の王を産んだお母さんとして、自分はすごいんだって思ってる。本当に、そう思ってる」


「だから、メリシエル。私を、土に還して」



第58話でした。お読みいただき、ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


ずっと匂わせてましたから、こうなることはわかっていたと思います。でも、実際にこうして書いてみると、自分でも、理不尽だなって思います。アレクサンドラ、さすが。でも、学校に行って、スープ・パスタを食べて、恋をしてみたいのは、アレクサンドラの本心です。これは、悲しい話ではありません。


引き続き、よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
メリシエルたちが作った世界が、平和で魅力的なだから輪廻に還りたくなる。生者として体験したくなるんですよね。 いま、私たちが生活してる現実世界はどうなんだろう。
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