第56話 大陸軍縮会議(前編)
黒薔薇歴10年末。
各国首脳が集まって、第一回大陸軍縮会議が行われた。
開会は、朝早かった。
——剣が手にあれば、振りたくなる。魔法が使えると、使いたくなる。
会場はヴァルディス王都の会議宮殿の大広間。臨時に国際会議場として整えられた。
入口は三重の検問があり、武器や魔道具の持ち込みは禁止されている。魔法や加護が暴発しないよう、多数の加護キャンセラーが発動している。
もちろん、緊急時には安全に避難できる仕組みになっている。
聖域特有の影響を避けるため、会場内は慎重に「中立属性」に調整されていた。光や闇の力を持つ参加者も公平な状態で議論できるようにとの配慮である。
傍聴席には各国議会議員やギルド、市民団体など約250名が並び、多数の記者も入っていた。記録係は各国から公平に選出され、後に、記録の違いがないかを確認する手筈になっている。
議場中央は楕円形の配置で、議長席の左右に「国家代表」「宗教・学院」「民間・ギルド」の三つの席が並ぶ。発言順は抽選と調整で決められた。開会直後に全員で確認された原則は、三つである。
1. 国家間の戦争を全面的に禁止すること。
2. 軍備や武器の製造・在庫・開発を段階的に減らしていくこと。
3. 違反があった場合、軍事力ではなく経済的・社会的な方法で制裁を行うこと。
初日の議題は「戦争」と「武器」の定義づけだった。これまでこの世界では、魔法や加護、召喚などの技術と兵器の区別があいまいで、恣意的に使われてきた。
最近になって「加護キャンセラー」が前線で使われ、戦力の均衡を崩したうえに、医療などの民間分野にも悪影響を与えた。そのため、この神器の利用については、特に議論を重ねる必要があった。
武器がなく、加護キャンセラーが効いている状況では、剣と魔法の戦争が成立しにくい。成立しにくいという可能性を実現することが重要である。だから加護キャンセラーは必要だ。
しかし、加護キャンセラーによって治癒魔法や防御魔法、魔物から街を守る結界まで無力化されてしまうのは問題だった。要するに、加護キャンセラーは、どこに配置するかという問題を抱えていた。
次の技術討議では、学院と職人ギルドが共同で「軍事利用と民生利用を区別する基準案」を示した。基準は五つで、目的、威力、影響範囲、自動性、拡散のしやすさ。
どれか一つでも基準を超えれば登録義務が生じ、国際機関の管理下に置く。
宗教側から「聖具は武器ではない」という主張も出たが、過去の不正使用を踏まえ、一定の威力を超える聖具は査察対象とすることで一致した。
——剣が手にあれば、振りたくなる。魔法が使えると、使いたくなる。
二日目は人の問題が中心になった。各国が徴兵や志願兵制度を停止し、兵士の退役と再教育を進める計画を報告した。
サリオンドレル公国は、孤児院やギルドと連携して、退役者を民間に受け入れ、孤児の自立支援にも資金を回す具体的で効果のある仕組みを説明した。
軍事費の一部を基金に移し、教育や職業訓練に使うという。孤児院の運営状況もつまびらかに公開され、食糧や医療、教育の環境が改善されつつあることが報告された。
午後は「大陸魔術査察団(CMA)」の設立案が議題になった。査察は三種類。
1. 通告査察(事前に知らせて行う通常調査)
2. 緊急査察(違反の疑いがあるときに即時に行う調査)
3. 追跡査察(武具や神器の流通経路を追う調査)
受け入れ国は、封印の解除や通訳魔法の提供、護衛の非武装化などを行う義務を負う。違反した場合は、自動的に経済制裁や交易停止が発動する。ただし、軍事的な制裁は、慎重に禁止される。
三日目は、会議でもっとも緊張が走った日である。実際の武装解除をどう進めるかが話し合われた。兵器の登録や解体、召喚獣の帰還、使役契約の解除、傭兵の再就職などが細かく検討された。
とくに人格を持つ存在(精霊、英霊、レイスなど)を強制的に使役することは倫理上の問題とされ、サリオンドレル公国が抱える倫理上の問題が指摘された。
サリオンドレル公国は、使役されることと、雇用されることの違いについて上手い議論を展開した。使役も雇用も、主人たる人物如何によって、被使役者の満足が決まる。
一概に使役だけを問題視するのはどうか。そもそも国によっては奴隷が存在しており、大陸条約では、まだ、奴隷の禁止はおろか、奴隷売買でさえ禁止されていない、と。
また、極端に強大な力(国家を転覆しかねない強さ)を持った存在は、大陸全体の安全保障上のリスクとして議論され、監視の必要性のみならず、教育や支援の仕組みも整えることで全会一致した。
この極端に強大な力を持った存在の仮リストが、事務方によって提出された。そこにある名前の9割までもが、サリオンドレル公国の兵籍であった。
軍縮によって最も大きな変化を求められるのは、サリオンドレル公国なのである。
第56話でした。お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
いよいよ、この世界から戦争が無くなろうとしています。もちろん、局地的には残るのかもしれません。しかし、とにかくこの世界は前進しています。
引き続き、よろしくお願い致します。




