第55話 赤ちゃんは、まだ?
春の日の午後。三人は、城の庭でお茶をしていた。
「メリシエル。赤ちゃんは、まだなの?」
「おかあさん、親子でも、そういうこと、言っちゃダメなんだよ?」
「ほら。だって、私、こんなでしょ? いつ成仏しちゃうか、わからなないじゃない。成仏する前に、孫の顔が見たくて。ごめんね。そんなの、わがままよね」
「私が使役してるんだから、大丈夫だよ。そんなこと言わないで」
エルシアナが、暴露する。
「お母さん。メリシエルは、体温が低すぎるんだって。それで、妊娠しにくい身体だって、お医者さんが言ってたよ」
「ちょっと、エルシアナ! なんで、言っちゃうのよ!」
メリシエルは、不浄の加護によって、通常の体温が死体なみに低い。そのため、妊娠しにくい。ただ、その事実を、アレクサンドラにだけは、知られたくなかった。
——おかあさん、きっと責任を感じちゃう。また、冥府の神様のこと、嫌いになっちゃう。
アレクサンドラは、そうかという顔をした。
しかし、それ以上の感情は見せず、じっと何かを考えていた。しばらくして、
「エルシアナは、どうなのよ。あなた、彼氏いないの? あなたの子どもも、私の孫だからね。メリシエルがダメでも、あなたも可能性あるんだし」
「ダメって何よ、おかあさん。ちょっと、ひどくない?」
「ごめんごめん。そういう意味じゃないのよ」
「どういう意味よ?」
「もう少ししたら、きっと話せる。話すことになるから。で、エルシアナ、どうなのよ?」
「うーん。私は、なんというか、ダークエルフじゃないですか。おそらく、そういうことに対する関心が、まだ小さいというか。あと300年くらいしたら、そういう気持ちになるかもしれないけど」
「そうなのね。色々と、難しいわね。難しいのが、人生よね」
メリシエルは、アレクサンドラが、メリシエルの低体温問題について、意外とあっさりしていることに驚いた。もう、冥府神に対する怒りもないのかもしれないと思った。
しかし。
「それにしても、神様っていうのは酷いよね。低い体温とか、ゆっくりとした成長とか。そういうの、勝手に決めるの、本当に許せない。加護なんて、なければいいのに」
表情も話し方も、静かだった。
ただ、メリシエルとエルシアナには、アレクサンドラの怒りが本物であることが明確に感じられた。
アレクサンドラは、この世界を呪っているのではない。神を呪っていたのだ。
もう、第55話まで来ました。お読みいただき、嬉しいです。ありがとうございます。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
アレクサンドラ、何かを考えているようです。親子でも、言ってはいけない言葉を発する。その焦りの背景には、いったい何があるのでしょう。
引き続き、よろしくお願い致します。




