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第54話 初等学院の設立

 兵籍を離れたアレクサンドラは、軍議・軍事訓練などに出席しなくなった。街の防衛や治安維持にも関わらなくなった。


 そうして、孤児院の現場に入り浸るようになった。多数いる子どもの中には、アレクサンドラのことが見える子どももいる。


 稀だが、アレクサンドラの声まで聞こえる子どももいた。そうした子ども6人を、養母としてアレクサンドラが担当した。


 アレクサンドラの声が聞こえるほどの子どもである。そもそも加護の力が強い。アレクサンドラによる教育で、この子どもたちが飛躍的な成長を見せた。


 他の教員・養母と、アレクサンドラの違いはなんだったのか。感覚的だが、母の愛としかいえない。子どもたちが自然に、アレクサンドラのことを「おかあさん」と呼ぶようになる。


 アレクサンドラのことが見えない、聞こえない子どもたちが、嫉妬をし始めた。そこでアレクサンドラは、他の養母を担当する死霊たちと同じように、普段は表出の魔法をかけてもらうことにした。


 もう、戦闘を想定しないのだから、表出していて構わない。もしかしたら、暗殺(死んでいるので暗浄化)されるかもしれない。アレクサンドラは、それでもいいと思った。


 ただ、言葉が。


 そこで、アレクサンドラは、しばらくぶりに、王立魔法師団学院の教員たちに手紙を送った。きっと返信はない。そう思っていたが、返信はすぐにあった。


 念話という方法はある。しかし念話は精神干渉性が強く、子ども相手に使うのは推奨できないとのことだった。言葉が伝わらない。ならばということで、アレクサンドラは、手話を始めた。


 そうしてアレクサンドラは、より多くの子どもたちと、手話を通じて簡単な会話をするようになった。不思議なことに、それだけで、子どもたちの多くが、それぞれの才能を伸ばし始めた。


——母の愛が伝わること。それが孤児たちの成長にとって、一番重要なことだった。


 子どもたちに必要なのは、言葉巧みな教育技術ではな買った。本気で心配し、干渉してくれる母が必要だった。確かにそれは人ではなく、レイスだった。聖母ではなく、悪霊であった。だから、なんだ。


 アレクサンドラには、サリオンドレル家の血が流れている。ただ、母の愛が伝わることに満足しない。そして、この子たちの未来には学校が必要だと考えるようになった。


 アレクサンドラは、すぐに、公国に移住していた前ヴァルディス王国、オルフェリウスに相談した。退屈していたオルフェリウスにとっても、またとない機会だ。


 オルフェリウスが指揮をとり、孤児院ではなく、寮生活を基本とした学校を整備することになった。そこにいるのは、もはや孤児ではない。生徒である。養母は、寮生活を支える寮母となった。


 オルフェリウスは、この初等学院に「アレクサンドラ初等学院」という名を付けようと主張した。しかし、アレクサンドラがこれを強く拒否。教育のない自分には相応しくないと、拒絶した。

 

 しかし後に、これを拒否することができなくなるのだが。


 とにかく一旦は「サリオンドレル初等学院」という名にしておく。初代校長には、オルフェリウスが就任した。教員の派遣や学校のカリキュラムの整備などは、ヴァルディス王国の支援を(有償で)受けた。


 他国の「孤児院にいた孤児」たちは、そうして、サリオンドレル公国の「初等学院の生徒」になって行った。公国では、子どもたちは孤児ではなく、国の宝として扱われる。


──春の夕方、西日が差していた。


 桜に似た白花が散るたび、アレクサンドラの髪が少し揺れた。彼女は身をかがめ、子どもたちの目線に合わせる。


 小さな手が差し出す壊れかけの木馬を受け取る。アレクサンドラは、その指先で、まるで祈るように木屑を払い、微笑んだ。アレクサンドラは、手話で、


「まだ動く──ほら」


 と表現する。この子どもには、手話の意味がわからなかった。しかし、アレクサンドラは、自分に何かを伝えようとしている。この子にとっては、それが嬉しい。手話のわかる子どもが、


「お母さん。まだ動くって言ってるよ」


 と助ける。


 指先で軸を整え、静かに押す。木馬はぎこちなくも、また一歩を踏み出した。子どもたちが歓声をあげる。その声に包まれるように、アレクサンドラは目を細めた。


 その瞳には、公国の重鎮としての威厳ではなく、ひとりの母としての温もりが宿っている。


 膝の上で眠ってしまった幼子の髪を撫でる。アレクサンドラは静かに空を仰いだ。風が裾を揺らし、夕陽が頬を撫でる。まるで夕陽の向こうにある闇が、その深い優しさを讃えているよう。


 遠くで鐘が鳴る。


 アレクサンドラが、満足そうに、微笑んでいた。


 そのとき──


 そこにあったのは、「慈しみそのもの」である。


 そしてその微笑みは、それを見た子どもたちにとって、生涯忘れられぬ「魂の軸」となった。



第54話でした。お読みいただき、ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


アレクサンドラは、むしろ、戦闘に参加しない方がいいですよね。もちろん、メリシエルやエルシアナも。ただ、こうした幸せは、自分で戦って勝ち取ってきたもの。初めから武力なしでは、ここまで到達できませんでした。なかなかに、難しいですね。


引き続き、よろしくお願い致します。

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