第53話 馬が可哀想
大陸条約に、戦争の禁止が盛り込まれる。
日々、その現実味が増す中。条約で公式に戦争が禁止されるまでの残された期間で、悲願を遂げようとする国があった。
黒薔薇歴10年2月。夕暮れ時。
ヴァルディス王国に、東の隣国、ダグナダイン王国が一方的な宣戦布告を行った。ダグナダイン王国は、28,000もの大軍を、ヴァルディス王国の城壁前に置いた。
このタイミングを逃せば、ヴァルディス王国は、未来永劫、手に入らない。ダグナダイン王国は、ここでリスクを取る決断をした。
ヴァルディス王国は、これが自衛戦であると主張するため、各国に視察団の派遣を要請。そうして、各国の視察団が、ヴァルディス王国の城壁にいた。
もちろん、サリオンドレル公国は、視察団ではなく「魔王軍」を送った。
部隊長はナヴィア、副隊長をトマス、ヴァンパイア2、それに死霊部隊300名で構成した。
この魔王軍が、視察団のいる隣の塔に到着した。
視察団には、上品なスーツに身を固めた美しい女性(ナヴィア)を、2人の紳士(ヴァンパイア)が護衛しているようにしか見えない。あれが、魔王軍?
加護キャンセラーの発動が確認された。
絶対神の加護を持つトマスにより、拡声の風魔法を付与されたナヴィアが警告する。
「サリオンドレル公国は、ヴァルディス王国の自衛戦を確認した。サリオンドレル公国は、先の宣言通り、ダグナダイン王国に対してのみ、宣戦布告をする!」
それからナヴィアは、視察団の方を向いて、
「これは、新たな大陸条約の成立前である。であるから、このサリオンドレル公国による宣戦布告は、条約違反ではない。歴史上、これが最後の戦争となる。しかと見届けよ」
まずは、相手への慈悲を見せる。
「ダグナダイン王国軍よ。我々は魔王軍だ。魔王軍相手に、貴様らごときでは万に一つも勝ち目はない。休戦の意思あらば、速やかに軍旗を降ろせ」
軍旗に変化はない。ダグナダイン王国の兵は、むしろ騒ぎ始めた。兵の多くは、魔王軍の実力を知らない。それを周知してしまえば、士気が低下する。ダグナダイン王国の上層部は、そう判断していた。
「よかろう。それでは、攻撃を開始する」
城壁にいる視察団が、息を呑む。3人で、一体、どのような攻撃をするというのか。加護キャンセラー発動化では、物理攻撃しかないのでは? 3人が28,000に対して物理攻撃?
まず、ダグナダイン王国軍の一番後方に張られていた天幕で、騒ぎが起こった。
3人がそれぞれ使役する100の死霊、合計300の死霊部隊が、死の予告を詠唱していた。その一発目で、一番豪華な天幕の前にいたダグナダイン国王、第一王子、第三王子が即死した。
「いま、そちらの国王らしき人物が崩御された。まだ戦争を続けるか? 続ける意思がなければ、軍旗を降ろせ!」
ダグナダイン王国は、この戦争にかけていた。なので、軍旗に土をつけたものは死罪との通達が出ていた。ダグナダイン王国軍は、軍旗を降ろしたくても降ろせなかった。
さらに、指揮命令系上、今、誰が軍全体の指揮官なのかすらわからない。
ナヴィアたちは仕方なく攻撃を続ける。馬上にいる兵、高価そうな鎧に身を包んでいる兵、天幕周辺で煌びやかな服を着ている兵、そういう兵が片っ端から即死していく。
そうして、馬上にいる兵がいなくなったころ。
「もう、そちらの指揮官は一人も残っていないと思われるが、如何か? ダグナダイン王国軍の兵士たちよ! 無駄死にするな! 家族が待っているのだろう? 指揮官を失ったものは、即時撤退せよ!」
ダグナダイン王国軍の兵士たちが、慌てて逃げ始める。
「止まれっ!」
兵士たちが、ビクッとして止まる。
「撤退にも作法がある! まず、剣、弓矢、鎧など、武装を全て脱ぎ捨てよ! 武装が残っているものは、選択的に即死させる!」
急いで武装を脱ぎ捨てる兵士たち。冷静になれず、武装したまま逃げていく兵士は、即死していく。
「次に、怯えている馬を落ち着かせ、固定せよ! 馬が可哀想ではないか!」
馬を落ち着かせる兵士たち。近くにある木や杭などに、その馬をつなぐ。
「よろしい! では、ダグナダイン王国軍の兵士たちよ! ゆっくり歩いて撤退せよ! 走ったものは、即死させる!」
トマスが呟く。
「えー、私……拡声魔法を使うためだけに、連れてこられたのですか? 絶対神の加護、使い方、間違ってませんか?」
ダグナダイン王国は、この戦争で、王侯貴族の多くを失った。その後、残された者たちでの王国再建は不可能と判断された。
同年4月。ダグナダイン王国は、ヴァルディス王国に併合された。
第53話でした。お読みいただき、ありがとうございます。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
情報伝達の手段が、あまり発展していない世界でのことです。魔王軍の強さも、意図的かどうかに関わらず、意外と伝わっていない段階です。
引き続き、よろしくお願い致します。




