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第52話 討伐された魔王

 アレクサンドラは、やりすぎた。


 サリオンドレル公国は、大陸全土から恐れられるようになった。悪いことに、自国民の中にも恐怖に耐えられない者が出てきた。そして、黒薔薇の街を離れる住民も現れた。


 冗談にならないということで、魔王系の看板を出していたスープ・パスタの店は、魔王系に変えて「こってり系」と主張するようになった。これには、メリシエルもショックを受けた。


 ここぞとばかりに、各国では、教会が勢力を伸ばし始めた。サリオンドレル公国側にいる神龍への信仰は止められ、歴史ある神龍の像は全て破壊された。


 魔王討伐。


 かつて魔王とは、メリシエルのことだった。しかし今となっては、魔王アレクサンドラが恐怖の対象である。もちろん、サリオンドレル家自体も、悪の象徴のように言われた。


 娯楽のない時代である。戦場に立つことのない大衆にとって、魔王アレクサンドラの出現は、恐ろしくも面白い話だ。各地で、人気の紙芝居にもなっている。


 アレクサンドラが、死んだ19歳の時のまま(目視できれば)美しい女性であることも、これに拍車をかける。若くして死んだ美人が、レイスとなってこの世界に復讐する。


 同情できる部分もある悪役は、魅力的な登場人物だ。ただ、やはり悪役は悪役。語られる物語の中には、アレクサンドラの方を正義とするものもあった。


 特にアレクサンドラによって救われた都市ミリアスでは、アレクサンドラは信仰の対象にもなっている。後に祠まで建立され、今でも好意的に語り継がれている。


 しかし世界は、強すぎる力を嫌悪するようにできている。


 魔王討伐。


 ただ。魔王討伐の加護を持つとされる勇者は、サリオンドレル家の人間だ。勇者セリュ=サリオンドレルは、魔王軍にいる。


 教会は、すぐ、打ち手に窮してしまう。それでも教会は、魔王討伐のための資金集めと称して、寄付を集めていた。


 いかに虐殺とはいえ、戦争である。大陸条約違反は認められない。宣戦布告も、巡書連璽(じゅんしょれんじ)によってなされている。法的には、公国はもちろん、アレクサンドラの罪は問えない。


 それどころか、大陸条約に違反したのは、セリュンティア王国とヴァルディア帝国の方である。条約に従うなら、莫大な賠償金の支払いが求められる。


 この支払いに応じなければ、連合軍が結成され、攻撃されても仕方がないことになっていた。


「もう、いいわよ。私が魔王ってことで。これで戦争も無くなるでしょ」


 アレクサンドラは、むしろ、これを狙っていたフシがある。魔王の汚名を、メリシエルから剥がす。実際にその効果は、十分すぎるほどだった。


 サリオンドレル公国は、すぐに巡書連璽を送った。



 大陸歴1252年1月。黒薔薇歴10年1月。都市ミリアスで行われた戦争において、サリオンドレル公国は、大陸条約違反を犯しておらず、法的な罪を問えない。これに対してセリュンティア王国とヴァルディア帝国は、都市内における交戦および民間人の蹂躙と殺害、都市の不当な破壊など、複数の大陸条約違反を犯している。連合国の一員として、サリオンドレル公国は、セリュンティア王国とヴァルディア帝国に対し、賠償金の支払いを求める。この賠償金の支払いに応じない場合、サリオンドレル公国は、連合国の判断を待つことなく、セリュンティア王国とヴァルディア帝国に対して、宣戦布告をする。



 この巡書連璽は、サリオンドレル公国に戻ってはこなかった。


 代わりに。


 ヴァルディス王国から、巡書連璽が回ってきた。すでに、サリオンドレル公国以外の全13カ国の王印が捺印されていた。



 魔王アレクサンドラ=サリオンドレルが戦闘行為に参加する限り、サリオンドレル公国を、大陸条約における加盟国の一員と認めない。大陸条約に、戦争の禁止と自衛権の付与を行う。原則として加盟国による戦争は禁止とする。同時に、戦争を仕掛けられた場合にのみ、加盟国はそれぞれに応戦する権利を有するものとする。



 ヴァルディス王国は、サリオンドレル公国の出自である。なので、この巡書連璽には、ヴァルディス王国なりの高度な配慮が見られる。


 要するに、戦争の禁止を飲む。ただ応戦する権利までは奪わないで欲しい。それで問題なければ、対価としてアレクサンドラを兵籍から除外し、暴行罪や殺人罪が適用される民間人として扱ってもらいたいと。


 さらに、結構な脅しも含まれている。


 大陸条約に加盟していないということは、街中での戦争もあり得る。それは実質的に、暗殺されても仕方がないという暗殺の容認にもなる。しかも加盟国でないから、宣戦布告も必要ない。


 ゴブリンなど、魔物の集落と同じ扱いである。


 メリシエルの加護が切れると、アレクサンドラが暴走することも織り込み済みだ。メリシエルの加護は切れないから、サリオンドレル公国では、加護キャンセラーを常時発動しておくことはできない。


 このままだと、サリオンドレル公国内で、浄化魔法による暗殺が行われる。だから、アレクサンドラを兵籍から外し、民間人扱いにしてくれということだ。


 前ヴァルディス王国、現サリオンドレル公国相談役のオルフェリウスが、諭すように話す。


「アレクサンドラよ。我らとともに、引退しようではないか。これで世界から戦争が減ることは間違いない。立派な功績であろう。暗殺されても、つまらぬではないか」


「お言葉ですが閣下。サリオンドレル公国が攻撃を受けても、私は自衛戦にも参加できなくなりますよね?」


「それなら心配いらぬ。民兵の組成に参加すればよい。我の後を継いだ息子は、そこまで理解して、この文書を作成しておる。ヴァルディス王国にとって、サリオンドレル公国は、血を分けた息子のようなもの。安心せい」


 オルセリオンは、この、ヴァルディス王国からの巡書連璽に印を押し、返却した。この返却に、アレクサンドラの兵籍からの除籍と民間人への移籍証明を添付した。


 歴史上初めて、事務手続きによって、魔王が討伐された瞬間である。



これで、第52話です。お読みいただき、嬉しいです。ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


魔王とはいえ、国家の兵籍に名を連ねる国民である限り、事務手続きによって、討伐することが可能です。そんな話を書いてみました。


引き続き、よろしくお願い致します。

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