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第51話 魔王アレクサンドラ

 サリオンドレル公国の主権宣誓礼に、国王自らが出席した国は4カ国。サリオンドレル公国を除いて、残り9カ国は大臣クラスを出席させていた。


 この9カ国は、危機意識の浸透が遅れる。巡書連璽を読んでも「ふーん。小国のくせに」くらいにしか考えていない。あの異常な軍隊を直接見ていないのだから、無理もない。


 大陸中央東部、聖河リュフェルの流域にあるセリュンティア王国。セリュンティアの西方、紅の高原と黒鉄の山脈地帯にあるヴァルディア帝国。


 黒薔薇歴10年、1月。


 この二カ国が、交戦状態に入った。セリュンティア王国12,000。ヴァルディア帝国9,000。中規模の戦争である。


 その知らせを受けて「魔王軍」が出撃する。


 メリシエルの加護は強力すぎるだけに、逆に、加護キャンセラーの影響が大きくなる。この出撃には、メリシエルの投入は見送られた。公務に忙しいオルセリオンも、戦地に行くべきではないと周囲に諭された。


 自らの参戦を主張したメリシエルも、オルセリオンが行かないならと納得する。部隊長として選ばれたのはアレクサンドラ。副隊長にはエルシアナとナヴィア。


 ネクロマンサーを複写しているナヴィアは、他4名のヴァンパイアを率い、ネクロマンサー隊を結成した。その上で、死の予告を発動できる死霊400を束ねる。


 この軍に必要なワイバーンは、エルシアナ用の1頭だけ。エルシアナ以外は、皆、飛行能力を持っている。


 こうして実戦になってみて分かったことがある。サリオンドレル軍の移動速度は、一番、飛行速度が遅い死霊部隊によって決められてしまうのだ。


 ただ、基本的にアンデッドは疲れないし眠らない。なので、ワイバーンとともに移動するエルシアナが先行し、休息。その間に、死霊部隊が不眠不休で追いつくという移動戦略が実行された。


 もちろん、エルシアナを一人にするわけにはいかない。エルシアナには、アレクサンドラが同行した。そうしてエルシアナは、ワイバーンに乗って低空飛行をしている。


「こうして、エルシアナと二人で旅行するの、初めてね」


「お母さん、これ、旅行じゃないからね。緊張感、持って。実戦だから」


「はーい。エルシアナは、真面目ね」


 そうして移動し、夜はともに小さな火を囲み、同じテントで寝た。アレクサンドラは寝る必要はないのだが、エルシアナを抱きしめ、目を閉じていた。


 エルシアナにとって、この移動時の記憶は、宝物だ。エルシアナは、これ以降、アレクサンドラのことを本当の母親のように感じられるようになった。


 ただ、この移動戦略が、後の問題を引き起こすことになる。


 魔王軍の基本戦略は「偉そうな敵兵」を標的とし、その標的が即死するまで、死の予告を連射することだ。シンプルなだけに、統率も容易である。


 偉そうな敵兵は、馬、ワイバーン、ドラゴンなどの乗り物に乗っている。または丘の上など、とにかく一般兵よりも高いところ、安全なところにいる。そして煌びやかなアーマーを身につけている。


 この基本戦略に従えば、敵兵とはいえ、戦死者も最低限にできる。殺しすぎたら、無駄に恨まれる。魔王軍はそれを危惧し、この戦略を採用していた。


 ある晩、夜営中。


 アレクサンドラとエルシアナのところに、ナヴィアが放っていた斥候部隊が報告にきた。なお、この斥候部隊は、移動速度の早い3名の死霊で構成されている。生前も斥候を得意としていた3名である。


 この斥候部隊からの報告には、驚かされた。


 セリュンティア王国軍、ヴァルディア帝国軍のどちらも、加護キャンセラーを発動させていないのだという。


 理由は、単純だった。偉そうな兵は、加護の力で、その地位を得ている。だから加護キャンセラーを発動させてしまうと、偉さの正当性を失うのだ。


 一般兵の前で、馬上から派手な魔法を放ちたい。人間離れした武力を見せつけたい。


 戦争自体には、政治的、戦略的な理由があるのかもしれない。しかし現場にいる偉そうな兵は、そんな個人的な馬鹿げた理由で、参戦していた。


 そもそも戦争をしたがる輩は、強力な加護持ちばかりなのだろう。加護とは、なんだろう。加護など、ない方が良いのではないか。絶対神が加護キャンセラーをばら撒いた理由は、これなのではないか。


 次の日、夕刻。いよいよ、先行するアレクサンドラとエルシアナが、両軍の交戦を目視できる距離にまで到達した。


 そこで二人は、見てしまった。


 両軍は、小規模の街ミリアス、その街中で交戦していた。街や村など、民間人がいるところでの交戦は、大陸条約違反である。しかしこの時、確かに両軍はミリアスの街中で交戦していたのだ。


 そして——交戦中にも関わらず、多数の民間人が蹂躙されていた。


 魔法攻撃により劣勢となったセリュンティア王国軍が、障害物の多い街中での交戦にヴァルディア帝国軍を引きずり込んでいた。


 この地から遠く、サリオンドレル公国にて。


 メリシエルは、義弟の勇者セリュ=サリオンドレルを連れて、孤児院関連の公務中だった。そこで、メリシエルが、急に取り乱し始めた。


「おかあさん、ダメ! ダメだよ! ダメ!」


 小さな子どもを抱いて逃げる母親が、背後から剣で刺された。子どもを連れ去ろうとする兵。子どもは泣きながら、それに抵抗していた。


 アレクサンドラが、呪いの詠唱を開始した。長い詠唱だった。


 エルシアナも、止めようとする。


「お母さん! 待って! まだ、始めちゃだめ!」


 しかしアレクサンドラは、そのまま詠唱を終えた。


 街中で交戦していたセリュンティア王国軍、ヴァルディア帝国軍、合わせて約7,500の兵が、一瞬で汚泥と化した。さらにその汚泥が、街の外に待機していた両国軍に襲いかかっていく。


 汚泥は止まることなく、逃げていく両国兵をどこまでも追いかけていく。そのまま4日間、汚泥はセリュンティア王国とヴァルディア帝国の城内にまで侵入し、両国兵を攻撃し続けた。


 驚くことに、このアレクサンドラの攻撃は、両国兵だけを選択的に汚泥化していた。この攻撃は、街にいた民間人はもちろん、街の衛兵などにも一切の被害者を出していない。


 実質的に、命中率100%の死の予告である。アレクサンドラは、同時に、何人まで殲滅できるのだろう。底がしれない。神龍でさえ彼女の力を恐れるわけだ。


 見せしめのレベルを超えている。当然ながら、これが「ミリアスの虐殺」として大問題に発展した。



第51話でした。お読みいただき、ありがとうございます。嬉しいです。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


やりすぎです。アレクサンドラは、この事件によって、嫌な形で歴史に名を残してしまいました。そして、これが原因となり、罰を受けることになります。


引き続き、よろしくお願い致します。

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