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第49話 主権宣誓礼(後編)

 みなさま。メリシエル=サリオンドレルです。


 私は、生まれながらにして母を殺し、その母を死霊として呼び戻し、使役し、隷属させてきたネクロマンサーです。


 母の人生を奪い、笑顔と温もりを奪い、それでもなお、母の魂を自分の側に縛りつけ、生きてきました。


 母の命に飽き足らず、死体から人さまの衣服を何度も盗み、草花や獣の命を多数奪い、今日までこうして生き永らえてきました。


 美しいものを枯らし、穏やかなものを汚し。それでも私は、生きたいと足掻いてきたのです。


 命を喰らい、排泄し、罪を重ねながら、呼吸を続けて参りました。


 多くの人に助けられてきました。人のやさしさに触れ、ぬくもりを教えられてきました。


 けれど。私は誰ひとりに対しても、恩返しなどしておりません。


 私は、たくさんの死霊に愛されています。それなのに私は、本音では、死霊たちのことを「気持ち悪い」とさえ思っています。


 愛されながら、愛することはしない。許されながら、許そうとしない。それが、私、メリシエル=サリオンドレルという存在です。


 私に、生きている価値などあるのでしょうか。


 いつもそう考えながら。だからといって死ぬ勇気もなく、ただ恥を晒し続けてきました。


 救われることを恐れ、罰せられることを望み。それでもなお、いつかは光の中に立ちたいと、そう願ってきました。


 私は、そんな矛盾に満ちた、非常に危険な存在です。


 私には、この世界のすべての死者を、必要もなく使役することができます。


 あなたの命を吸い取り、アンデッドとして蘇らせ、永遠にこの世を彷徨わせることさえ、容易いのです。


 たったひとつの命令で、愛する者をも従順な奴隷に変えてしまえる。私は、それほどの力をもっています。


 そんな恐ろしいことが、私には、簡単にできてしまう。


 この危険すぎる力を、いったい誰が、何のために、私に与えたのでしょうか。いまだに答えは出ません。


 しかし確かなことがあります。それは——私が「大いなる矛盾そのもの」だということです。


 繰り返します。私は、矛盾そのものなのです。


 効率的であろうとする。しかし、効率の中で削ぎ落とされていく人間らしさを、私は愛おしいと思う。


 生者も死者も、誰もが平等であってほしいと願う。しかし私は、この公妃たる高い地位にあることを、ひそかに喜んでいる。


 正しくありたいと願う。しかし、私は自分を正しいと信じ、誰かを裁き、良い気分になりたいだけ。


 優しくありたい。しかし、現実の私は、こうして恐怖を世界にばら撒いている。


 人々とつながりたい。しかし私は、自分の家族さえ幸せであればそれでいいと思っている。


 愛する人には自由に幸福を追求してほしい。そう願いながら、私はその人たちの魂を束縛する。


 安定を望みながら、安定に飽きてしまう。理解されたいと願いながら、本当の自分を見せるのは嫌。


 褒められたいと思いながらも。褒められても、それが相手による保身のためのお世辞にしか感じられず、喜べない。


 そして——


 心から平和を求めているのに。本当に平和を求めているというのに、こうして私は強大な軍隊を整えました。


 もはや「魔王軍」と呼ばれても仕方のない規模と実力です。


 私は人間です。しかし皆さんのおっしゃる通り、きっと私は「魔王」なのでしょう。


 矛盾とは、何でしょうか。


 矛盾とは、弱さではなく、深さなのだと、私は思います。


 矛盾を抱えるということは、ひとつの答えに安住できないということです。


 つまり「答えなどない」と。矛盾とは、答えの存在自体を否定する態度なのです。


 私は、この世界を愛しています。朝の光も、夜の闇も、すべて愛しています。


 しかし——私は、許せません。愛しているからこそ、許せないのです。


 過去の過ちも、失われた命も、見過ごされた涙も。私は、それらを抱きしめながら、決して忘れない。忘れられない。


 かつて私に石を投げたものどもよ。私は、お前たちのことを、決して忘れない。許さない。


 さて。


 サリオンドレル公国の誕生を祝ってくださり、心より感謝申し上げます。


 この公国は、私が過去に積み上げてきた罪の証です。同時に、私がこれから犯していく新しい罪の象徴でもあります。


 サリオンドレル公国は、生きる者と死せる者とが、共に「矛盾を歩む国」です。


 皆さん、これから——私たちと、仲良くしてくださいね!


 この国の名物、スープ・パスタも、ぜひ、楽しんでいってください!


 以上!


 メリシエル=サリオンドレルでした!



第5章の始まりです。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


メリシエルの宣誓でした。答えの存在の否定。それはつまり、神の存在否定になっていきます。そういえば、ここでもまた、あの曲『グリーグ / 過ぎにし春 / Op. 34 / 二つの悲しき旋律 / 第2番』が流れていました。メリシエルが好きな曲ということで。


引き続き、よろしくお願い致します。

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