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第48話 主権宣誓礼(前編)

 この大陸における国際条約では、どこの国家にも属さない特定の土地は、4年の実効支配により、実効支配者に、その所有権が与えられることになっている。こちらは、問題ない。


 また国を名乗る場合は、既存3カ国以上の承認が必要とされる。こちらも、目処がたった。もちろん、ヴァルディス王国、国王オルフェリウス=ヴァルディスの後ろ盾が大きい。


 ただ、各国には既に黒薔薇の街を体験したことのある富裕層が多くいたことも無視できない。少し邪悪な感じはするけれど、あれだけの規模の都市なのだ。もはや国と言って差し支えない。


 黒薔薇歴9年。オルセリオン26歳。メリシエル23歳。エルシアナ約160歳(見た目は12歳)。


 サリオンドレル公国が誕生した。


 形の上では、サリオンドレル家は、ヴァルディス王国の侯爵位にある。そのため、サリオンドレル「公国」というのが正式な名称であり、オルセリオン公、メリシエル公妃となる。


 ちなみにアレクサンドラとエルシアナも、公妃太夫人アレクサンドラ閣下、公妃姉君エルシアナ殿/閣下となる。


 招待状や条約文における国際表記は「雁器公オルセリオン殿下 / 斬橋公妃メリシエル殿下」が正式となる。あくまでも「王」ではないとするが、サリオンドレル公国は、立派な独立国家である。


 サリオンドレル公国は、事前にヴァルディス王国との相互不可侵条約を締結しておきたかった。しかし、ヴァルディス王国、国王オルフェリウスは、またもや貴族の説得に失敗してした。


 サリオンドレル公国は、文書で、領域(確定した国境)、恒久の住民、政府機能(外交・軍・財政・司法の機能)、条約を結ぶ能力(他国と国際関係を結べる主体性)を確定した。


 この確定事項を、大陸全土の国家に送付した。これには、サリオンドレル公国による、国家として公式な主権の宣誓を行う式典「主権宣誓礼(しゅけんせんせいれい)」への招待の意味もある。


 当然ながら「主権宣誓礼」は、威嚇である。



 その日は、秋。とてもよく晴れた日の午後だった。


 街は人で溢れ、完全にお祭りムードである。すでに、黒薔薇の花弁が舞っている。


 各国首脳、列席者の数が多すぎる。大広間には入りきらない。そこで列席者たちは、普段であれば黒龍キセノクランがいる巨大なベランダに集められている。


 今日は、全ての死霊に表出の魔法がかけられている。そのため、加護の弱い列席者たちにも、サリオンドレル公国の死霊たちが目視できた。


 アレクサンドラ、メリシエル(玉座)、オルセリオン(玉座)、エルシアナの順に、よく晴れた空を背に、列席者たちと相対している。黒薔薇の花弁が、ここでも舞っている。


 司会や話者、楽団の楽器に対して、拡声の風魔法がかけられていく。街にいる人々にも、主権宣誓礼の式典の様子が聞こえるように。


 そして、全ての拡声魔法の詠唱が完了した。ついに、漆黒のアーマーに身を包んだ衛兵が、何度も練習をしたであろう言葉を叫ぶ。


「公妃姉君エルシアナ=サリオンドレル閣下!」


「エルシアナ=サリオンドレルです。これより、サリオンドレル公国、主権宣誓礼を開始いたします」


 暗い水面の静謐。秩序ある闇。管の色彩が冥府のモチーフと自然に響く。そんな曲が流れ始める。世界最高と名高いダークエルフ楽団による演奏。被差別民たちの呪いが、今、世界に響き渡る。


(ジャン・シベリウス / トゥオネラの白鳥 / レミンカイネン組曲 / 四つの伝説 / Op.22 / 第2曲)


 演奏の途中から、急に暗雲が立ち込める。地獄門に間違いない。「ギギギ」という爆音がする。雲の中には音のない稲妻が走る。その稲妻が、無数の悪魔の姿を照らす。


 静かに、演奏が終わる。「ギギギ」


「雁器公オルセリオン=サリオンドレル殿下!」


 ダークエルフ楽団が、結婚パレートでも演奏した、冥府と現世を結ぶ「橋」を表現する。生と死、終わりと始まりが同時に感じられる。そんな曲が流れ始めた。


(グリーグ / 過ぎにし春 / Op. 34 / 二つの悲しき旋律 / 第2番)


 地獄門を背にして、オルセリオンが、挨拶をする。「ギギギ」


「オルセリオン=サリオンドレルです。各国首脳の皆様方、サリオンドレル公国誕生の儀にお集まりいただき、誠にありがとうございます」


「私、オルセリオン=サリオンドレルは、冥府の神オリシス様より、『この世から争いを無くせ』と命じられております」


「今日、ご列席の皆様方には、それに協力いただけるものと確信しております。すなわち、戦争の禁止です」


「戦争を行おうとする者があれば、セリオンドレル公国は、これからご覧に入れる全ての軍事力を持って、その者と敵対することを宣言します」


「まず、即死の呪い、『死の予告』を扱う、死霊軍団です。ご案内のとおり、呪いですから、加護キャンセラーの影響を受けません。あちらをご覧ください」


 オルセリオンは、上空を指差した。そちらには、数千の死霊が飛んでいるのが見える。「ギギギ」


「彼らの『死の予告』、命中率は1%程度です。ですから、100の死霊があれば、1人の指揮官を確実に即死させることが可能です。現在、3,600を超える死霊が、セリオンドレル公国に配属されております」


「我々と交戦することになれば、交戦開始から16秒で、36人の将を即死されられる計算です。もちろん、呪いの詠唱は時間の許す限り、約20秒毎に、何度でも行えます」


「即死させた指揮官は、即時、死霊化します。そしてサリオンドレル軍の兵として数えられます。そちらの優秀な指揮官36人が、20秒ごとに、こちらの兵になるのです」


「サリオンドレル公国には、28個の加護キャンセラーがあります。加護キャンセラー発動下では、浄化魔法も、防御魔法も無効です。当然、飛行魔法も使えません。物理攻撃も無効です。もし、攻撃を当てるとするなら、加護キャンセラーの効かない絶対神の加護持ちか、ドラゴンライダーかワイバーンライダーによるブレス攻撃または聖剣による攻撃が必要でしょう」


「しかし、ご案内の通り、ドラゴンやワイバーンは精神錯乱の呪いを弱点としております。そして、死霊にとって精神錯乱の呪いは、お手のものです」


「意外と忘れられておりますが、死霊には眠りも、食事も、休息も必要ありません。軍としての維持コストもありません。いくらでも大きくすることが可能なのです」


 上空にいた、数千の死霊の姿が一気に消えた。「ギギギ」


「このように実戦では、姿の見えない、24時間365日戦い続けることができる、確率的には10分毎に1,000人を屠ることができる、疲れ知らずの軍隊です。5時間毎に3万人の軍隊をゼロにできます。1日で約15万人を消すことが可能です。つまり計算上は、こちらは毎日15万人の兵を増員できるということです」


「次に、加護キャンセラーの効果が及ばない絶対神の加護持ちの中でも、特に強力な加護を持っている18名の特殊部隊のご紹介をします」


「ギギギ」


 エルシアナが立ち上がり、スカートの裾を持って丁寧にお辞儀する。他の17名のメンバーは、急に、目の前に現れた。あのレッサーレイス、トマスもこの中にいる。


「隊長は、義姉であるエルシアナ=サリオンドレルです。彼女は、光と闇の2属性を主属性とする、非常に稀な存在です。この2属性を同時に主属性とする者のみが、超級階梯魔法『絶対神の鉄槌』を使用できます。その効果は、あえてここでは申し上げません。ただ易々と、国一つを滅ぼぜる程度には強いと申し上げておきます」


「他のメンバーも、光属性が使えるものが複数います。加護キャンセラーの発動下で、治癒魔法や浄化魔法、防御魔法、攻撃魔法が使える、稀有な存在です。そもそも絶対神の加護を持つのは、およそ2万人に1人と言われております。運よく、絶対神の加護を持っていても、強力でなければ、実戦には投入できません」


「諸外国でも、絶対神の加護持ちを探していると聞きます。しかし、実戦に投入できるようなレベルの人材は、いても1人だそうですね。こちら、確かな情報を得ております。その1人は、実戦になれば、死霊部隊が16秒で即死させる最初の36人の1人に入ることは間違いございません。そして、こちら側の兵になります。サリオンドレル公国は、人材のスカウトを、生きている人間のみならず、死者にまで広げられます。結果として、この18名という大人数の特殊部隊があります」


 咳払いをする、オルセリオン。「ギギギ」


「では、ネクロマンサーを排除すれば良いのでしょうか。なるほど、死霊を使役することが、サリオンドレル家の特殊性です。ですから、ネクロマンサーさえ無力化できればとお考えになるのも当然です」


 天井から、24名のヴァンパイアが降下してくる。


「ヴァンパイアの世界で、最も有力とされるノクシエル家。その本家の末娘であるナヴィエル=ノクシエル が、サリオンドレル家の配下にあります。ナヴィエルは、いわゆるヴァンパイア・クイーンと呼ばれる種族であり、現在、23名のヴァンパイアを部下として従えています」


「ギギギ」「ギギギギ」


「ヴァンパイアは、人間や死霊とはかなり異なる種族です。加護キャンセラーも、ヴァンパイアには何の影響も与えません。ヴァンパイアの特徴は、血を吸った相手の加護を、一時的に複写することです」


「一時的というのは、ほぼ永遠に生きている、いやアンデッドですから永遠に生きていない、ヴァンパイアにとっての一時的です。それは人間の感覚では、数年〜10数年という単位です」


「この24名のヴァンパイアたちは、強力なネクロマンサーの加護を複写しています。これにより、この世界でただ1人のネクロマンサーは、25人に拡張されています」


「残念ながら、本家のネクロマンサーには、加護キャンセラーが有効です。しかし、加護を複写するヴァンパイアには、加護キャンセラーが効きません。ですから理論上は、ヴァンパイアの方が、本家よりも強力ということになります」


「仮に本家のネクロマンサーが死んだとしても。加護を複写したヴァンパイア同士が、お互いの血を吸い合えば、実質的に、サリオンドレル公国から、ネクロマンサーを消すことはできません」


「そして、この25人を同時に無力化する手立ては、人間にはありません」


 いよいよ、地獄門が発動しようとしている。「ギギギ」「ギギギギ」「ギギギギギ」


「もし。もしです。これだけの軍隊が負ける可能性があるとするならば。それは、地獄門も含めた超位階梯魔法をも無力化できる、神龍と呼ばれる、あの黒龍キセノクランしかいません」


 顕現しようとしている地獄門を易々と通過し、消滅させ、青空を出現させる黒龍キセノクラン。ベランダの前で翼をはためかせ、止まった。通常のドラゴンより、10倍は大きい。


「詳細は省きますが。こちら、黒龍キセノクランは、私の実の姉です。ネクロマンサーである私の妻にとっては、実の叔母にあたります」


「ちなみに黒龍キセノクランは、絶対神の加護持ちです。加護キャンセラーが効きません。900年以上に渡り、教会が祈りを捧げてきた神龍。その神龍は、教会ではなく、こうして私どもと共にあります」


「そんな黒龍キセノクランが、唯一、恐れている存在が、アレクサンドラ=セリオンドレルです。黒龍キセノクランに言わせれば、先代魔王よりも、アレクサンドラ様の方がお強いそうです」


 アレクサンドラも、スカートの裾をもち、丁寧にお辞儀する。


「一番非力なのは、私、オルセリオン=サリオンドレルです。ですが、私のこの神より賜りし右腕には、あの英雄、雁鉄のヴァリオンドが召喚されています」


「次世代? おっしやる通りです。そこで、今年成人した私の弟、セリュ=ダイン=サリオンドレルをご紹介します。絶対神の加護持ちで、加護は勇者。全属性使いです。サリオンドレル家の未来には、勇者もおります」


 漆黒のフルアーマーに身を包んでいた護衛隊長らしき人物が、兜を脱いで、丁寧なお辞儀をした。


「すでにご案内の通り。サリオンドレル公国には、世界最大にして最高の孤児院があります。そのお陰で、人口に占める子どもの割合が、世界で最も大きい国となりました。その中には、才能のある子どもが多数います」


「未来が、どうなるか。もう、明らかですよね。私たち、サリオンドレル公国が負ける理由は、向こう300年くらいはありません。ですから」


「ですから、戦争の禁止に、ご賛同いただきたい」


 もしくは。


「もしくは、我々と戦って死霊となるか。死霊となり、死してサリオンドレル家にご隷属いただいても結構です。不浄なる我が家に、永遠に使えていただいても構いません」


「サリオンドレル公国は、これから個別に、各国と軍事力の縮小について交渉を行って参ります。もちろん、その進捗によって、サリオンドレル公国の軍事力も縮小することを、ここにお約束します」


「この世界から、武器と軍隊を無くす。まずは、そこからです。以上。オルセリオン=サリオンドレルでした」


 拍手はない。音楽だけが、続いていた。


「斬橋公妃メリシエル殿下!」



第4章が終わりました。第48話でした。ここまでお読みいただけたこと、嬉しいです。ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


やりすぎな感じはします。ただ、戦争を起こせない状況を作り、戦争を潰す正当性は、ここで示されました。次回、メリシエルの宣誓より、第5章が始まります。


引き続き、よろしくお願い致します。

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