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第47話 黒龍キセノクラン

 ドワーフたちが、久しぶりに謁見を求めてきた。緊急なのだという。


 採掘も取引も順調で、さらに坑道を拡大するというところだった。メリシエルは、他国の孤児院からの孤児の受け入れのため、エルシアナと街を離れていた。オルセリオンだけで、対応する。


「お久しぶりです。皆さん。今回は、どうなさいました?」


 ドワーフ曰く。坑道を掘りす進めていたところ、巨大な竪穴にぶつかったと。その竪穴の反対側にある大きな「えぐれ」に、巨大な黒龍がいるという。


 基本的に寝ているため害はなさそうだが、恐ろしくて、それ以上、坑道を掘り進められないのだそうだ。


「黒龍。そんなのがいるんですね」


「伝説の黒龍であれば、黒龍キセノクラン様ということになります」


 黒龍キセノクラン(境界の外側にある円環)は、伝説によれば、960年前に魔王を滅ぼした討伐軍に組み込まれていた龍である。魔王を滅ぼしたあと、そのままこの地で眠っていたのかもしれない。


 オルセリオンは、メリシエルの帰りを待つべきかどうか、迷った。そこで、アレクサンドラ、雁鉄とナヴィアに相談をすることにした。アレクサンドラが、まず、食いついた。


「まあ! 龍がいるのね! みてみたいわ! 私、ちょっと先に行ってみてくる!」


「ダメですよ、お義母さん。龍が本当にキセノクラン様であれば、お義母さんのこと、はっきり見えるはずです。しかも、お義母さんにも、龍のブレス攻撃なら通用しちゃいますよ」


「えー、残念」


 雁鉄が言う。


「黒龍キセノクラン。我の現役時代にも、すでに伝説として語り継がれておった。実在したとはの。しかも生きておられるとは」


「オルセリオン様。それが本当にキセノクラン様であれば、まずは話してみるべきかと。父から、聡明で物分かりの良い方だと聞いています」


「ナヴィアのお父上は、キセノクラン様とお知り合いなのですか?」


「父は、魔王討伐軍の一員でしたから。キセノクラン様と一緒に戦っています。父曰く、化け物みたいにお強いそうです」


 アレクサンドラが、少し呆れていう。


「伝説の龍なんでしょ? 化け物に決まってるじゃないの、そんなの。きっと反則級よ」


「レイスだって、十分に化け物ですよ。特にアレクサンドラ様は、反則級です」


「え、もしかして私、世界最強?」


「お義母さん。真面目にそれ、あり得ますね。聖なる光にだけ注意しておけば、加護キャンセラーがある世界なら、お義母さんが世界最強かもしれません」


「メリシエルの地獄門の方が、すごいでしょ?」


「地獄門は、実際には使えないですから。味方まで全滅しちゃうので」



 オルセリオン(+雁鉄)、アレクサンドラ、ナヴィア。それに数名の死霊の護衛もついて、ドワーフに言われた通りの坑道を進む一行。


 死霊の護衛は、ドワーフが罠をかけているかもしれないと警戒していた。もし、坑道に閉じ込められたりした場合、壁をすり抜けドワーフを攻撃する必要がある。


 その時、アレクサンドラだけだと、ドワーフを完全に殲滅してしまうかもしれない。それを恐れての付き添いだった。死霊たちは、ドワーフではなく、アレクサンドラの方を恐れていた。


 杞憂だった。


 黒龍キセノクランは、確かにそこに居た。こちらから話しかけるまでもなく、キセノクランが首をあげ、こちらに話しかけてきた。


 その黒龍の目は、白く濁っていた。おそらく、見えていない。


「ネンヴェリエル! ど、どうして! どうしてあなたがここに? あなた、冥府にいたんじゃないの?」


 オルセリオンが、話しかける。


「黒龍キセノクラン様。キセノクラン様に、間違いございませんか?」


「え、あなたの声。ネンヴェリエルじゃないの? ネンヴェリエルよね?」


「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。私は、この地を治めている、オルセリオン=サリオンドレルと申します。」


「キセノクラン様! 素敵! 私、アレクサンドラ=サリオンドレルと申します!」


「ええ! レイスがいる? ちょっと、これ、戦いなの?」


「まさか! キセノクラン様と戦うだなんて。ただ、私、あなた様みたいな美しい存在を見たことがなくて」


「アレクサンドラ……さん? あなた、魔王じゃないわよね?」


「960年前に、キセノクラン様とお父様が討伐された魔王って、レイスだったんですか?」


「お父様? あなた、ノクシエル家の人間ね? お父様、お元気?」


 たまらず、オルセリオンが割ってはいる。


「皆様、落ち着いてください。ちょっと話を整理しましょう」


 整理してみると、こういうことだった。


 960年前に討伐された魔王は、レイスだった。アレクサンドラは、その時のレイスよりも強い力を持っているらしい。それで、キセノクランは、魔王の再来だと焦ってしまった。


 ネンヴェリエル(結界の中枢を担う妃)とは、冥府の神オリシスの妻となったダークエルフの名前。ネンヴェリエルとキセノクランは、それ以前の輪廻で、姉妹だったことのある関係だ。


 姉が黒龍に、妹はダークエルフとして再生した。


 黒龍は、絶対神の加護により、輪廻の系譜が見える。なので、妹を見つけ出し、前世について説明した。妹は、どこか不思議に思いながらも、姉を慕い、共にあった。


 ネンヴェリエルは、その後、冥府の神オリシスにみそめられ、エルナ・シリエン=ラ=ファメル(永遠なる輪廻を共に)の儀式を執り行い、生きたまま、冥府へと嫁いで行った。


 ネンヴェリエルは、幸せのうちに、寿命で死んだ。


 冥府の神オリシスは、ネンヴェリエルの魂と共に永遠にあることもできた。しかし、愛するネンヴェリエルの輪廻を止めてしまうことをよしとせず、数百年の後に、ネンヴェリエルの魂を再生させた。


 そうして再生した命が、オルセリオンだった。


 ちなみに、ネンヴェリエルは、冥府神の妻だったダークエルフの名前。その前の姉妹だった時の名前ではないらしい。名前は、再生の度に変わる。ただ、魂は同じ。


 オルセリオンの魂は、ネンヴェリエルであり、かつてキセノクランの妹だった。


 視力を失っていたキセノクランは、魂をよりはっきりと認識できるようになっていた。それでオルセリオンのことを、ネンヴェリエルだと勘違いした。勘違いではないのだけれど。


 だから、冥府の神は、神器と言って差し支えない義手を、オルセリオンに贈ったのだ。元々、ネンヴェリエルに贈られたものであるからして、贈ったというよりも返却したわけだ。


 オルセリオンが、人間嫌いのはずのダークエルフに好かれる理由も、ここで判明した。そもそもオルセリオン、前世はダークエルフだったのだ。


 急に、オルセリオンの中で、一つの情景がはっきりと姿を現した。



 午後の光が照らす野原。8歳くらいの姉を、6歳くらいの妹が追いかけている。


「待ってよー、お姉ちゃんってばー」


 二人は背の低い草を踏み、今度は、たんぽぽの綿毛を追いかける。姉が4つ葉を見つけると、妹の掌にそっとのせた。


 小さな歓声。つないだ手が揺れ、影も並んで揺れる。転べば姉がすぐに起こし、土のついた膝を払ってやる。


 水筒を回し飲みし、麦わら帽子を交換しては笑う。風が髪をほどき、遠くでひばりが鳴く。帰り道の約束は、明日も同じ場所で遊ぶこと。



 オルセリオンの目から、涙が自然と溢れ出す。


「キセノクラン様……あなたを姉としていた時代の記憶が、少しだけ見えました。なんて、幸せだったんでしょう。私の魂が、キセノクラン様に、深い感謝の念を示しています。キセノクラン様、本当にありがとうございました」


「私も、こうしてまたあなたの魂に再会できて、本当に嬉しい。また、姉として慕ってちょうだい。これでもう、私も寂しくないわ」


 後日。


 坑道内がドワーフたちの採掘作業でうるさいからという理由で、黒龍キセノクランは、黒薔薇城に引っ越してきた。城の大幅な改修が必要だったが、きちんと雨風が防げる大きなベランダが準備できた。


 オルセリオンの姉である。メリシエルにとっては、叔母様だ。


「ねえ、叔母様。私の前世って、どんなだったかわかる?」


「わかるわよー、あなたは、蜘蛛(クモ)だったのよ。小さな蜘蛛ちゃん」


「ええ! やった! 嬉しい! 蜘蛛だったなんて! だから私、蜘蛛好きなんだね、叔母様!」


「メリシエルちゃん。前世が虫で喜んでる人、叔母さん初めて会ったよ。少し、変わってるのね」


 笑い話もある。ただ、これとは別に、気になることもあった。


 同じように、前世が何であったか、黒龍キセノクランに、エルシアナが尋ねた。その時、キセノクランには、エルシアナの前世が見えなかった。


 エルシアナの魂は、一度、リセットされている。つまり、前世のエルシアナは、一度、この世界を終わらせた張本人だった可能性が高い。絶対神の鉄槌を世界に放って、魂を一度消滅させたのだろう。


 黒龍キセノクランは、この仮説を誤魔化し、その後しばらくの間、誰にも伝えていない。



いよいよ第4章も大詰め。第47話でした。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


メリシエルは、蜘蛛が大好き。その理由もわかって、幸せそうです。キセノクランの方が、むしろ常識的だったりするところ、なんだか愉快です。


引き続き、よろしくお願い致します。

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