第45話 アタル=シリストール鉱山
黒薔薇城の応接室に、珍しい客人がいる。3人の薄汚れたドワーフが、オルセリオンとメリシエルへの謁見を求めていた。
ドワーフらの陳情によれば。この不浄の森にある火山、アタル=シリストール(穢れた炎の峰)からは、良質な鉱石が多数産出されるのだという。
ただ近年、不浄の森には強力な魔物が増え、なかなか、火山にまで辿り着けない。そうしてドワーフたちは悔しい思いをしていた。
それなのに。危険度が増している不浄の森に、いつの間にか、黒薔薇城と黒薔薇の街ができているではないか。不浄の森の入り口から街までは街道が整備され、この街道にだけは魔物も出ない。
陳情は、強力な魔物でさえ寄せ付けない、その力を少し貸してくれないかということだった。
狡猾なドワーフたちは、魔物を寄せ付けない力の秘密さえわかれば、自分たちでもなんとかできるかもしれないと期待していた。ソファに座りながら、お互いにいやらしい目線を交わすドワーフたち。
そこに、オルセリオンとメリシエルが入ってきた。応接室の温度が下がり、無数の死霊が泣き叫ぶ声が聞こえる。
メリシエルの強大な力に圧倒され、ドワーフたちは、その場で命乞いの土下座を始めた。
「姫! 申し訳ございませんでした!」「どうか、お許しください!!」「命だけは! 幼い息子がいるんです!」
メリシエルは、何がなんだかわからない。オルセリオンはニヤリと察して、
「アタル=シリストール鉱山の件、こちらの条件を飲んでいただけたら、協力しましょう」
ドワーフは、土下座したまま、
「寛大なる王よ。その条件とは?」
「王ではありません。この地に、王はいません。私は、オルセリオン=サリオンドレルです。オルセリオンとお呼びいただいて結構ですよ」
「私も、姫じゃありません。メリシエル=サリオンドレルです。よろしくお願いします」
ドワーフたちの自己紹介も済んで、オルセリオンが(ナヴィアが考えた)条件について話をした。
1. 地下道の整備
不浄の森の入り口から黒薔薇の街までは、街道が整備され、防御結界も貼られていて安全だ。ただ、これ以上、不浄の森の生態系を破壊したくない。そのため、黒薔薇の街から火山アタル=シリストールまでを繋ぐ地下道を整備する。この地下道はドワーフが掘り、サリオンドレル家がその地下道の内側に防御結界を張る(サンドワームなど地中にも危険な魔物がいるため)。地下道には、サリオンドレル家が、死霊ガーディアンを複数配備する。これにより、通行証を持たないドワーフの通行を不可能にする。
2. 通行税と先買権
産出されたいかなる物も、黒薔薇の街の検閲倉庫に一度納める。検閲倉庫では、産出されたものの市場価値を算出する。そうして算出された金額の7%を、通行税としてサリオンドレル家に納める。通行税は、金銭のみならず物納も認める。さらに産出されたいかなる物も、一番初めに、サリオンドレル家が市場価格で買い取る権利(先買権)を持つ。これにより、他国に流出させたくない物(特殊品)が掘り起こされた場合に対処できる。
3. 魔物の排除
火山アタル=シリストール内部にも、強力な魔物がいる可能性が高い。こうした魔物は、サリオンドレル家が排除に務める。排除できた場合は、都度、ドワーフがサリオンドレル家に対して成功報酬を支払う。成功報酬は金銭のみならず物納も認める。魔物の排除に失敗し、その失敗により高山での採掘が著しく滞った場合は、サリオンドレル家がその損失を一部、補填する。実際に補填額は、都度、協議する。
ドワーフたちは、その場でこの条件を全て飲んだ。一度持ち帰って協議するものとばかり思っていたオルセリオンは、問う。
「皆様、ここで決めてしまって良いのですか? 他の方々の承認はいらないのですか?」
「そもそも、サリオンドレル家がなければ、私どもは、アタル=シリストール鉱山を諦めるしかありません。諦めるぐらいなら、いただいた条件など、お安いものでしょう」
サリオンドレルは、最後に念を押した(これもナヴィアの入れ知恵)。
「では最後に一つだけ。先に、注意しておきたいことがあります。こうした鉱山関係の取引では、宝石の原石など、高価なものをポケットに忍ばせ密輸する事件もあると聞きます」
ドワーフたちの顔が曇る。誇りを汚された気持ち半分。実際には、そういうことも多発する現場の実情を知っている後ろめたさ半分。
「地下道を守護する英霊たちは、ポケットの中までお見通しであること。ご同朋方に、くれぐれもお伝え願います。特に、地下道の守護隊長に任命される英霊は、危険です。重大な不正を見抜けなかったことを悔いて自害した、生前は近衛隊長だった英霊です。不正には、相当厳しく当たるはずです。くれぐれも、ご注意ください」
これで、第45話まで来ました。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。嬉しいです。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
この鉱山で産出される宝石を、富裕層向けのお土産に仕立てます。ただ、宝石類の鉱山からの密輸はよくある話です。「推理」の加護を持つナヴィアが、それをあらかじめ牽制しています。
引き続き、よろしくお願い致します。




