第42話 孤児院の急拡大
「あっ、そうか。そうだよな」
黒薔薇城の執務室で、財務諸表を見ていたオルセリオンが、そう言って膝を打った。
オルセリオンは、孤児院の運用については、かなり精通していた。以前、王国にいたとき。短期間とはいえ、王命によって、王国68拠点もの孤児院を管理していたからだ。
そんなオルセリオンは、黒薔薇の街に設立された孤児院の運用のことが、どうにも腑に落ちていなかった。おかしいと思っていた。
簡単な事だった。
死霊には、人件費(給与)が必要ないのだ。黒薔薇城も、黒薔薇の街も、以前よりはだいぶ減ったとはいえ、まだ死霊が多く存在している。
そうして、まだ現世に残っている死霊たちは、サリオンドレル家に対する純粋な忠誠心によって動いていた。スープ・パスタのことを、我慢して。
死霊たちは、街の建設、医療福祉、防衛や警察機能など、様々な分野で活躍してくれている。闇属性のダークエルフとの相性もいい。
実際に、街の人々と死霊のコミュニケーションは、ダークエルフが通訳していた。ダークエルフたちも、死霊の通訳を通して街に馴染んでいた。
そうした死霊たちのおかげで、各種インフラの運用コストが、ありえないほど安く済んでいたのだ。当たり前のことだが、気づいていなかった。
オルセリオンは、コーヒーを持ってきてくれたエルシアナに、興奮気味に
「エルシアナ姉さん! ちょっと!」
「うん? どうしたの?」
そこで本を読んでいたアレクサンドラにも
「お義母さんも! ちょっと!」
「あら? 何かしら?」
右腕にも、久しぶりにヴァリオンドを召喚して
「雁鉄様も! ちょっと!」
「おお、久しいな。いかがなされた?」
オルセリオンは、世界中から孤児を引き取ることはできないかと。エルシアナとアレクサンドラ、雁鉄のヴァリオンドに、その相談を始めた。
孤児の両親の中には、子どもを思うがあまり、死霊化している者も少なくないはず。そうした死霊を「子どもが成人するまで」という条件で使役することは、双方の利益になるだろう。
そうすれば、多くの孤児たちを抱えても、無理なく、愛のこもった養育ができる。親代わりではなく、そもそも親が養育に関わるのだから。
各国も、孤児院の運用は、頭の痛い問題のはずだ。戦争が多く、孤児が生まれやすい時代が続いていたことも、この問題を大きくさせている。
さらに、多くの国で、教会が孤児院を管理していることも気に食わない。子どもが、価値観(祈りを捧げる神)を選べない環境に強制的に置かれている。
アレクサンドラが、疑問に思って問う。
「オルセリオン。なんで、メリシエルには相談しないの? 親御さんを使役できるのは、メリシエルだけよ?」
「だってお義母様。このことメリシエルに言ったら、検討段階をすっ飛ばして、すぐに動き始めちゃうでしょう? どんどん、親御さんを見つけてきて、使役しちゃう……」
エルシアナは、妙に納得する。
「そうだよね。メリシエルは、そういう子だよね。いい子なんだけど、ちょっと世界を簡単に考えてるとこ、あるからね。孤児を受け入れるためには、部屋とかベッドとか、色々と準備も必要だし」
アレクサンドラが、申し訳なさそうに加える。
「やっぱり、ちゃんと学校に行かせてないから……」
雁鉄のヴァリオンドは
「いい子じゃぞ、メリシエルは。そんな風に言わんでやってくれ」
そこにメリシエルが入ってきた。
「なに? なになに? みんなで秘密の相談、してるでしょ! ずるいよ! あ、おじいちゃんまで! おじいちゃん、言わないと、嫌いになるからね! 教えて!」
バレた。
第42話でした。お読みいただき、ありがとうございます。嬉しいです。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
当たり前のことですが、ネクロマンサーがいると、社会の運用コストが劇的に下がります。それに気づいて、まず着手するのが孤児院というあたりが、さすが、サリオンドレル家といったところでしょう。
引き続き、よろしくお願い致します。




