第40話 セララ・エン・メルサ
黒薔薇の街は、徐々に豊かになっていった。
そんな中、ダークエルフたちが、自治区の返上を申し出たのには驚かされた。
ダークエルフ自治区の長だったファメロン=カルカトスが言う。
「オルセリオン様。この街の皆様は、私たちのことを受け入れてくださいました。もはや、疑う余地などございません。それなのに、私たちが自治区を維持し、皆様のことを拒絶するのは違うということになりました」
オルセリオンが、それを受け入れて
「ありがたいです。では具体的に、どのように解放を進めますか?」
「これから私どもは、自力で街の不動産物件を購入したり、借りたりしていくつもりです。無償で自治区にいられるのを2年後までとし、その後、自治区の不動産はサリオンドレル家にお返しします」
「森を開拓して、そちらに住居を建設するという手もありますよ?」
「いえ、それではまた、ダークエルフだけで固まってしまうでしょう。街の人々の中に、私たちも溶け込んで行きたいのです。もちろん、開拓するケースもあるでしょうが」
「なるほど、わかりました。溶け込むのでしたら、一つ、提案があります」
「なんでしょう?」
「ダークエルフの皆様も、スープ・パスタ選手権に出てもらいたいのです」
◇
黒薔薇の街には、幸せな空気が立ち込めるようになった。それに呼応し、死霊は現世への未練を断ち、その数を減らしていった。特に、死霊たちの成仏を加速させたのは、スープ・パスタの存在だった。
黒薔薇の街では、何故か、レストランというレストランがスープ・パスタの味を競い合い、いつしか街の名物になっていた。メリシエルも、エルシアナに連れられて、スープ・パスタを食べた。
「なにこれ? え? なんなの? エルシアナ姉さん。こんなに美味しいものって、他にある?」
「ね、メリシエル。いった通りでしょ? もっとお姉ちゃんのこと、信じなさいよ」
領主の婚約者、斬橋のメリシエル=サリオンドレルが、こうしてスープ・パスタにハマった。それが大きかったのかもしれない。
それから、メリシエルを審査員としたスープ・パスタ選手権が何度も開催された。これが、街の賑わいを絶頂まで高めていく。
しかし死霊たちは、食事ができない。死霊たちは、動植物から「味のしない精気」を吸って暮らしている。でも、死霊だってスープ・パスタを食べてみたい。
「死んでる場合じゃない!」という掛け声と共に、死霊たちは次々と冥府へと帰り、強く再生を願った。
『サリオンドレル家に使えしもの。永遠なる黒薔薇の民の誇りとともに、ここに眠る』
黒薔薇の民たちは、街の中央に立つこの石碑を大切に磨き、周囲を黒薔薇で囲んだ。それから。それぞれがお気に入りのスープ・パスタを、一口分だけコップに入れて捧げる風習が生まれた。
スープ・パスタが捧げられる時は、必ず、古代エルフ語で次のような祈りの言葉が添えられる。
「セララ・エン・メルサ(一緒に食べましょう)」
この街の歴史に疎い観光客には、おかしな風習かもしれない。だが、黒薔薇の街の住民の間では、今も大切な文化として続いている。
今では全世界に広がるスープ・パスタの巨大チェーン「セララ・エン・メルサ」の名は、共に街の未来を築いた死霊たちへの感謝をその背景としている。
かつて、ダークエルフ自治区の長だったファメロン=カルカトスこそ、この巨大チェーンの創業者である。
第40話でした。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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さて。
スープ・パスタ。要するにラーメンです。なお、メリシエルはコッテリ系が好き。のちに、独特というレベルを超えたコッテリ系のスープ・パスタは「魔王系」と呼ばれ、「セララ・エン・メルサ」とは別の形で世界に広がることになります。でもそれはまた、別のお話。
引き続き、よろしくお願い致します。




