表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

第4話 抱き合うこと

 メリシエルが、加護の効果調整を覚え、使いこなせるようになるまで2ヶ月を要した。これで、普通の人間として生きられる。


 斬橋。そう思っていた時期もあった。


 しかし今度は、別の問題が発生する。加護の効果を弱めると、人類最強の筋力が現れる。その状態でペンを持つと、ペンが簡単に壊れてしまう。まだ、授業には出られそうにない。


 武術教官のタルウェン(戦う乙女)が、筋力の使い方について、メリシエルの指導にあたることになった。


「わかった? ちゃんとやってみて。ほら、アレクサンドラさんも、一緒にやる!」


「タルウェン先生。お母さん、筋肉どころか、そもそも身体がないって言ってるよ?」


「そうなの? ちゃんと身体、あるじゃない」


「あれ? タルウェン先生、お母さんのこと、ちゃんと見えてる?」


「うん。とっても、キレイな人よね。前見たときは、髪ボサボサで、いかにもレイスって感じだった。でも今は、髪もショートにして、とても清潔。レイスって、わからないくらい」


 タルウェンは、アレクサンドラに近づいて、手を取ろうとした。しかし、その手は掴めなかった。


「そりゃ、そうか。実体はないのよね。レイスだから」


「そうなの先生。私も、お母さんに触れられないの。悲しいの」


「ふふん。それ、違うよ」


 タルウェンは、短い呪文を唱えた。そうしてまた、アレクサンドラの手を取ろうとする。アレクサンドラは、まさか、自分の身体に触れられる人間がいるとは思っていない。


 次の瞬間。アレクサンドラが「キャッ」と(メリシエルにしか聞こえない)悲鳴をあげて飛び上がる。なんと、タルウェンがアレクサンドラの手を握っていた。


「実体のない敵に対して、物理攻撃を当てるための魔法があるの。本来なら、攻撃用。でも、あなたたち親子にとっては、抱き合うための愛の呪文ってことになるわね」


 アレクサンドラが、泣いている。早くその魔法をメリシエルに教えてくれと懇願する。残念ながらタルウェンにも、そのアレクサンドラの声までは聞こえない。


 メリシエルも、泣きながら魔法を練習した。ちゃんと呪文を声にしないと、魔法は発動しない。それでも嬉しくて、どうしても涙が止まらなかった。


 この魔法の習得には、また2ヶ月を要した。


 メリシエル。ペンはまだ、上手に持てない。スプーンも曲げてしまう。皿をわり、ドアノブだって破壊する。けれど。


 メリシエルとアレクサンドラは、死別して以降、初めて抱き合えるようになった。


 魔法の発動に、メリシエルが初めて成功した夜。


 この親子は、朝まで抱きしめ合って、ずっと泣いていた。


 後のメリシエル。この魔法だけ、すぐに呪文の詠唱なしで使えるようになる。この世界で、詠唱なしで発動する魔法の話など、伝説の中にしか存在しない。


 けれどメリシエルは、無詠唱魔法を使えるようになった。その理由を、ここで付け加える必要はないだろう。



こうして、第4話までお読みいただきました。本当に嬉しいです。ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


実体のない敵に物理攻撃を当てる魔法。よくある魔法ですが、こうした親子にとっては(そんな親子はあまりいませんが)愛の魔法です。素晴らしい師匠に恵まれた、親子の勝利でした。


引き続き、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ