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第39話 ダークエルフ・スカウト

 90年前、ダークエルフは各国で同時期に迫害を受けた。


 表向きの理由は「禁呪使用」「異端信仰」「異種交配への嫌悪」など。実際には政治的排除の意図が強く、ダークエルフは、貴族社会からも完全に排斥された。


 迫害後、生き残った者の多くは地下へと逃れ、鉱山や排水路に拠点を築いた。定住地を失った彼らは経済的に孤立し、犯罪組織や傭兵団の下層構成員として取り込まれた。


 エルシアナが孤児になったのも、この時の迫害が原因である。その後、エルシアナは運良く、ヴァルディス王国の臣民になれた。もちろん、絶対神の鉄槌の使い手になる可能性が判明したからだ。


 しかし、そんな特別な事情のないダークエルフの多くには、正式な国籍は与えられなかった。そして社会的には「非登録民」として扱われることがほとんどとなる。


 一方。


 黒薔薇の街は、人材難に直面していた。死霊であれば、勝手にどこかで精気を得て、勝手に暮らしてくれる。しかし生きた人間には衣食住、教育や娯楽、上水道に下水道と、必要な社会インフラが多い。


 オルセリオンは次の施策として「街の専門性向上」を目指した。目的は、生者の技術と文化を、この街に導入することだった。


 黒薔薇の街に来てもらう。引き抜く。その対象としてピンポイントで選ばれたのが、ダークエルフだった。同胞とまた会えるのだ。エルシアナが積極的にこれを支援したのは、言うまでもない。


 オルセリオンの右手(雁鉄のヴァリオンド)が残した議事録(第12期・人材評価)には次のような記載がある。


・ダークエルフは社会的信用を失っているが、知的水準はかなり高い。

・錬金、医療、工芸、言語のいずれも平均的な人間を大幅に上回る。

・彼らは、黒薔薇の死霊社会に欠けている「創造領域」を補える。


 オルセリオンは、この計画に「ダークエルフ・スカウト」と名付け、その責任者として「あえて」メリシエルを配置し、エルシアナにその補佐をさせた。


 人間嫌いのダークエルフたちに、この姉妹の姿を見せ、人間と共に暮らすイメージを持ってもらうためだ。


 メリシエルとエルシアナは、ワイバーンに乗って各地を巡り、時にスカウトに成功し、時に失敗した。そうした中でも特筆すべきは、地下都市ヴァルド=ドレインとの交渉における大成功だ。


 ここでの交渉は、一週間に及んだ。結果として地下都市にいた300名を超えるダークエルフたちを、移住希望者として黒薔薇の街が受け入れることになったのだ。


 黒薔薇歴2年。冬季の記録により、結果が確認できる。移住者総数312名、うち成人246名、未成年66名。なおダークエルフの成人は、300歳以上と定義されていた。


 主な職能は以下の通り。


 医術・調薬 38

 鍛造・金属加工 57

 魔術技術・文献職 22

 農・水利関係 44

 一般労働・家事従事 151


 黒薔薇の街の北側に、特別に「ダークエルフ再生区」が設置された。人間と死霊が混在する建設技師団が居住空間を要望通りに整備し、厚生団が検疫・配給を速やかに並行実施した。


 けれど……ダークエルフは、なかなかに面倒くさかった。頭が良く、権利ばかりを主張する。しかも年齢相応に人生経験が豊富なため、口も立つ。


 トラブルもたくさんあった。が、そうしたトラブルも、肝のすわったサリオンドレル家にとっては、なんでもない。トラブルを起こしたダークエルフの方が、着地としては恐縮し、サリオンドレル家に恭順していく。


 人間嫌いなはずのダークエルフたちは、なぜか、オルセリオンに懐いていく。何かとオルセリオンの話題を持ち出し、理由を作っては、オルセリオンに会いに来る。


 この理由は、もう少し後になってから判明することになる。


 黒薔薇の街の自治会は、ダークエルフ再生区を干渉対象外とした(本当は、メリシエルが交渉の場で、勝手にそう約束してしまったから)。これにより、彼らの自治が一定程度、確保・保証された。


 そうして世界中のダークエルフたちが、この地を目指すようになった。



もう、第39話にもなります。長い話を、ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


難民、棄民と差別されている人々を受け入れることで、街が大きく、豊かになっていきます。不浄であることが、問題とならない街。それが、メリシエルをはじめとしたサリオンドレル家の力になっていきます。なお雁鉄のヴァリオンドは、能力調整で知力を高めた状態で、オルセリオンの執務を手伝っています。文字通り、右腕ですね。


引き続き、よろしくお願い致します。

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