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第33話 新しい戦術

 久しぶりの黒薔薇城にて。


 使用人エリックとパトリシアが、久しぶりの皆の帰還にハッスルしていた。城はピカピカ。テーブルは黒薔薇の花弁で埋め尽くされ、豪華な食事が並ぶ。


 ただ、今回の想定外の襲撃事件を受けて。サリオンドレルのメンバーは、皆で真剣な話し合いをしている。


 不意打ちは仕方ない。ただ、今回の辺境伯の長男救出のように明確な目標がある場合。こちらから戦闘を仕掛ける際には、より合理的な戦術が必要だとなった。


 サリオンドレル最大の弱点は、メリシエルに加護キャンセラーを使われ、アレクサンドラが制御不能になることだ。メリシエルが、意外なことを言う。


「いっそ、自分たちで加護キャンセラーを発動しちゃうのはどうかしら? 3つも持ってるし」


 戦いを有利に進めるには、不確定要素が少ない方がいい。であるなら、いっそ、雁鉄を召喚した上で、こちらから加護キャンセラーを積極活用するのはどうか。そういう提案だ。


 そもそも、加護キャンセラーがある前提で考えれば、最大の不確定要素を無くせる。3つも必要ないので、うち2つは国王に預けるとして。雁鉄が、甲高い声で、


「それは、十分にありうるの。面白いではないか」


 前衛は、オルセリオンとアレクサンドラ。雁鉄のいる右腕が大剣をぶん回しても、アレクサンドラには当たらない。アレクサンドラは、物理攻撃の邪魔にならないのだ。


 後衛はエリシアナ。絶対神の加護持ちには、加護キャンセラーが効かない。そのため、エリシアナは普通に魔法を放てる。


 しかも、加護キャンセラーが発動していれば、敵の魔法を封じられる。特に闇属性が苦手とする光属性の魔法が無力化できる。敵は治癒魔法も防衛魔法も、浄化魔法も使えない。


 さらに、前線に立つアレクサンドラには、物理攻撃が効かない。魔法攻撃が無力化された状況では、アレクサンドラは、無敵状態になる。


 ただし。絶対神の加護を持たないアレクサンドラにも魔法は使えない。その代わり、魔法ではなく、祝福の一種である「呪い」であれば使えることがわかっている。


 加護キャンセラーの効果範囲(5km)の外、望遠にメリシエルを配置する。メリシエルの魔法なら、望遠からも攻撃できる。生活階梯魔法であれば、味方の殲滅は避けられる。


 ただ、この戦術だと、前衛の枚数が少ない。それに望遠のメリシエルが孤立してしまう。サリオンドレル、パーティメンバーを増員すべきであろう。


 しかし、サリオンドレルのパーティメンバーになることを希望する人間は(まず)いない。


 放浪の義務があり、ハードなクエストをこなし、暴走する可能性を孕んだレイスと共にあるのだから。しかも特にメリシエルの護衛は、空中戦への適性が求められる。


 そんなことを議論しているとき。使用人エリックとパトリシアが、話したいことがあると伝えてきた。エリックが発言する。


「私と妻は、こうしてサリオンドレル家に使えることができて、本当に幸せです。誇りに思っています。だからこそ……困っています」


 アレクサンドラに、思い当たることがあるようだ。


「もしかして、輪廻に戻りたいって感じる?」


「左様です。満たされた思いは、現世への執着を失わせます。そろそろ、現世をお暇すべきではないかと感じてしまうのです。どうしても、そう感じてしまうのです」


 パトリシアが、懇願する。


「メリシエル様、どうか私たち夫婦を、貴方様に隷属させてはいただけないでしょうか? 私たち夫婦も、誇り高きサリオンドレル家と共にありたいのです!」


 メリシエルは、ネクロマンサーの罪深い力を、生まれて初めて意識した。ネクロマンサーは、アンデッドが成仏して輪廻に戻ることを阻害する存在なのだ。


 それは、アンデッド本人が望むことであったとしても。どうしても正しいことのようには思えない。メリシエルが、問う。


「それで、叔父様と叔母様は、輪廻に戻れなくなってもいいの?」


 エリックがアンデッドらしい不気味な笑いを浮かべて


「それはメリシエル様。貴方様が生きている間だけの話です。貴方様が亡くなられたら、隷属は切れます。そこで、私ども夫婦は強制的に輪廻に戻ることになるでしょう」


 メリシエルは、母アレクサンドラのことを考えていた。


——そうか。私は、私が生きている限り、ずっとお母さんと一緒なんだ。


 それは、正しいことなのだろうか。わからない。メリシエルは、エリックとパトリシアの希望通りにすべきかどうか、皆の意見を求めた。


 皆は、一様に「わからない」との立場だった。むしろ、誠実だ。パトリシアが、発言した。


「メリシエル様。一度、隷属させたとしても、貴方様が『土に還れ』と命じれば、それで私たち夫婦は輪廻に戻れます。もし、私たちの隷属が間違いだとお感じになられたら、その時でも遅くはないのです」


 メリシエルは、自分で決めた。


「後戻りは、いつでもできるってことね。なら、やってみる」


 メリシエルは、ネクロマンサーとして初めて、アンデッドを強制的に使役する。メリシエルには、呪文も必要ない。跪き、両手を胸の前で結び、使役をイメージした。


 死霊エリックは「精神攻撃」の呪いを得意とするスペクターとして使役されることになった。死霊パトリシアは、「死の予告」の呪いに長けたバンシーとして使役されることになった。


 パトリシアは、エルシアナと共に後衛に入り、死の予告を乱発する役割を担う。死の予告は、そうそう命中しない。しかし命中すれば、即死である。


 パトリシアは、敵の指揮官に対して死の予告をかけ続ける。それだけで、敵の指揮官は、指揮への集中を奪われる。かなり後方にいても、バンシーの攻撃は届くので、これは敵にとってきつい。


 エリックは、スペクターとしてメリシエルの護衛を担当する。ドラゴンライダーやワイバーンライダーといった敵が、空にいるメリシエルを攻撃する場合、ライダーではなく精神攻撃に弱いドラゴンやワイバーンを呪いで撹乱・攻撃する。


 新しい戦術が、こうして完成した。そしてそのお披露目の機会は、意外と早く訪れる。


 メリシエルがあと4ヶ月で14歳になるころ。


 王国の西側に位置する砂の国サーレ=サリエンが、ヴァルディス王国に宣戦布告をしたのである。



もう第33話です。ここまでお読みいただき、本当に嬉しいです。ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


メリシエルが、生まれて初めて、母親以外のアンデッドを使役します。同時に、ネクロマンサーの罪深い力についても、理解を深めます。さて。メリシエルは、母アレクサンドラをどうするのでしょう。どうしたいのでしょう。


引き続き、よろしくお願い致します。

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