第31話 戦闘
加護キャンセラーの発動を感知したオルセリオンは、即座に抜刀した。
「メリシエル! 攻撃に備えろ!」
メリシエルは、すでに拳を前に構えていた。
「わかってます! 私にだって、わかります!」
こんな街中で。国際条例違反だ。
抜刀したオルセリオンを見て、周囲にいた人々が即座に逃げ出す。人々が逃げたその後に、5人の輩だけが残された。見た目は、冒険者のよう。しかし、どこぞの国の刺客であろう。
「オルセリオン様! 私、お母さんを抱えて逃げるべきですか?」
そう言われて、オルセリオンは自分の判断と指示が遅れていることに気づく。迷う。相手の力量もわからない。刺客が、弱いはずはない。そして相手に絶対神の加護持ちがいたら、まず勝てない。
「想定外だ。まずは——」
メリシエルが地面を蹴る「ガツッ」という音が、その言葉を途中で遮る。蹴られた地面にあった敷石が、メリシエルの後方に吹き飛ぶ。
次の瞬間、メリシエルは左足を軸として、右足で輩の1人を蹴る。蹴られた輩は、他2名の輩の身体と共に「ベチャ」と嫌な音を立て、石壁に血糊を撒き散らす。
——運がいい。強くない。
オルセリオンが「残り2人」と思うよりも早く、メリシエルは左拳を一閃。輩の顎に当たり、首がおかしな方向に曲げられる。右拳はそして、最後の1人となった輩の胴を打ち、そのまま輩の体をグニャリと宙に飛ばした。
それから、メリシエルの後方に吹き飛んでいた敷石が、音を立てて地面に落ちた。
「終わりです」
メリシエルがそう言って振り向くと、オルセリオンがいない。オルセリオンは、街の城門の外に輩と同じ匂いを感じ、既にそちらの9人の始末に向かっていた。
メリシエルが、オルセリオンの気配を辿って城門の外に到着したとき。オルセリオンは刺客9人を片付け、薄金色の立方体を手にしていた。加護キャンセラーだ。
「メリシエル。アレクサンドラ様が心配だ。すぐに——」
メリシエルは超低姿勢。飛ぶようにして宿屋の方向に走っていく。オルセリオンも、それに続こうとする。が、メリシエルの方がずっと早い。
オルセリオンが宿屋の近くに到着したとき。宿屋の最上階が爆音と共に吹き飛んだ。エルシアナは、そこから少し離れたところで空中に浮遊している。
オルセリオンを見つけたエルシアナが
「アレクサンドラ様、大丈夫じゃない! 状況、よくない!」
宿屋から外に逃げ出す人々の波を飛び越えて、オルセリオンが剥き出しになった最上階に飛び降りる。エルシアナは、飛んでいくオルセリオンの背に向かって、闇の祝福を唱えた。
「ごめん! 火の祝福、まだ上手に使えない!」
アレクサンドラの瞳が消えていた。教会前のあのときと同じだ。
まずい。
「エルシアナ! これを持って、ここからできる限り離れるんだ!」
そう言ってオルセリオンは、加護キャンセラーをエルシアナに投げ渡した。事態を察したエルシアナは、加護キャンセラーを手にワイバーンに跨り、急いでその場を離れていく。
「メリシエル! 無事か!」
煙の残る最上階で、メリシエルは、意識を飛ばしているアレクサンドラに抱きついて泣き喚いている。それとは対照的に、アレクサンドラは瞳のない目で、落ち着いて周囲を見回している。
——標的を探している。アレクサンドラの標的は、誰だ?
「メリシエル! アレクサンドラ様は、誰かを探してる! 誰だか、わかるか!」
「言えない! とても言えないっ!」
瞳を失っているアレクサンドラは、一瞬だけ上を見てから、下に向き直った。それからゆっくりと下に降り、そのまま、地面の中に消えていく。
エルシアナは、ワイバーンを最速で飛ばし、都市アリュセーンから離れようとしていた。加護キャンセラーを片腕に抱き、もう片方でワイバーンの手綱を握りしめ、頭を低くしている。
「間に合え! 間に合え! 間に合え!」
少しして、メリシエルとオルセリオンの体重が戻った。加護キャンセラーが5km圏内よりも外に出たのだ。メリシエルはすかざす、ネクロマンサーの加護により命じた。
「お母さん! 戻りなさい! これは、命令です! お母さん!」
しばらくして、アレクサンドラは地面の下から姿を表した。瞳は、元に戻っている。
アレクサンドラの表情は、怒りに満ちていた。
ここまでで、第31話です。こんなにもたくさんのテキストをお読みいただき、ありがとうございます。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
アレクサンドラは、一体、誰に対して怒っているのでしょう。誰を、なぜ、標的であると認識しているのでしょう。
引き続き、よろしくお願い致します。




