第3話 王立魔術師団学院
5月。入学式から遅れること1ヶ月。
メリシエルは、王立魔術師団学院に入学した。
この学院では、寮生活が基本となる。メリシエルには、他の生徒の安全上の理由から、特別に個室が与えられた。そしてメリシエルは、今、女子寮の2階にある個室に案内されている。
「お母さん! ベッドがあるよ! これ、私のベッド!」
メリシエル。生まれて初めて、ベッドに横たわる。嬉々としたメリシエルの姿とは対照的に、ベッドは秒で絶命した。悲しそうな顔をするメリシエル。
しばらくは、石の床で寝ないとならない。石の床も、正直、心配である。学院の管理者たちは、メリシエルの部屋を1階の4人部屋と入れ替えることに合意した。
メリシエルのクラス担任、セリオナール(導く者)が、まずは、メリシエルに「加護の効果を調整する方法」を教えることになった。そうしないと、椅子にも座れない。それでは授業が受けられない。
「理屈は、以上です。メリシエルさん。加護の効果調整理論、理解できましたか? お母様も、きちんと学んでおいてください。お嬢様が、これから人間らしく生きるために必要なことです」
「お母さんの名前、アレクサンドラっていうのよ! ステキでしょ?」
「古代エルフ語で『守護者』の意味ですね。素晴らしいお名前です」
「セリオナール先生、お母さんのこと、見えるの?」
「加護の強い者であれば、ぼんやりとは見えます。私にも、アレクサンドラ様。お美しい輪郭だけは見えております。残念ながら、お声は聞こえないですが。私の力量不足です。お恥ずかしい」
そう言われて、輪郭だけのアレクサンドラは、急に髪を整え始めた。そういえば、もう何年も髪を切っていない。強い加護を持った人間の多い学院では、自分を見つけてもらえる。ちゃんと気にしないと。
「セリオナール先生。お母さん、人間じゃないみたいなんだけど」
「そうですね。一般にはレイスと呼ばれる存在です。非常に高位のアンデッドで、敵対すると、普通の人間ではとても敵いません」
「お母さん、やっぱり強いんだ! すごいよ、お母さん!」
「ですが。お母様は、聖なる光には弱い。なので聖なる光を相手にするときは、メリシエルさん。あなたが、お母様をお守りするのですよ」
「私が? どうやって? 私、まだ9歳だよ?」
「だから、加護の効果調節が必要なんです。いいですか? メリシエルさんは、今、ありえないほど重い身体をしています」
「先生、ひどい。私のこと、デブって言った」
「違います。加護の強さは、体重として具現化するのです。だからメリシエルさん。橋やベッドを簡単に破壊してしまうあなたは、強すぎる加護の持ち主ってことです」
「強すぎる加護……」
「その加護の強さを調整して、弱くすると、どうなりますか?」
「ベッドで寝られる!」
「そうですね。そして、木製の椅子に座って授業が受けられます」
「勉強して、お母さんを守れるようになれってことね!」
「それも、あります。ですがそれ以上に重要なのは——メリシエルさんは、その重たい身体を支える筋力を持っていることです。そこから重さを取り除くと?」
「筋力だけが、残る?」
「そうです。斬橋のメリシエル。あなたの筋力は、おそらく人類最強でしょう。武術を学べば、お母様のことを、聖なる光からお守りするのに十分です」
「武術、やる! 私、武術を勉強する!」
「その前に、加護の効果調整です。このスキルが、未来の歴史に残るであろうあなたの覇道。その基礎になります」
これで、第3話までお読みいただけたことになります。ありがとうございます。本当に嬉しいです。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
加護の効果を調整するスキルが、結果として、メリシエルを最強の前衛にします。使いこなせればチートですが、そう簡単ではありません。これから、苦労します。
引き続き、よろしくお願い致します。