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第27話 放浪の義務

 初等科での3年が終わった。終業式も終わり、卒業生が教室に集まっていた。


 初等科から中等科に進学するのは、全体の3割程度。そのほとんどがA組の生徒だ。


 メリシエルも、中等科への進学を希望していた。しかし加護キャンセラーの国家的事情から、メリシエルを学院に固定しておくことは危険と判断されている。


 メリシエルのパックは、ここで学院を離れる。


「メリシエルさん、これでお別れだなんて……。一緒に、中等科に行けると思っていたのに」

「エルシアナさんも、オルセリオンくんも、これでお別れなんだね……」

「寂しくなるな。君たちがいると、退屈しないから……」


 メリシエルたちは、A組のクラスメートから、寄せ書きをもらった。メリシエルにとって、生まれて初めての寄せ書きである。


 さらに、A組の生徒たちは、アレクサンドラにも寄せ書きを送った。アレクサンドラは、そもそも公教育を受けていない。村には、字の読み書きができるものも少なかった。


 寄せ書きは、メリシエルとアレクサンドラの親子にとって、衝撃だった。こんなに簡単なことで、誰かを喜ばせることができる。自分たちは、これまで一体、何をしてきたのかと反省した。


 これ以降、メリシエルとアレクサンドラは筆まめになった。いつも嬉々として、誰かに手紙や寄せ書きを送っている。訪れる村では、必ず文具店に立ち寄り、可愛い便箋や封筒を収集するようにもなった。


 手紙をもらう側も、王国全土から届く、珍しい話題が詰まった手紙の到着が待ち遠しい。おかげでメリシエルは、学院時代の友だちと、学院にいた頃よりも仲良くなっていく。


 アレクサンドラは、声は通じなくても、文書であれば多くの人とコミュニケーションができることに、やっと気づいた。ポルターガイストを洗練させ、字も書けるようになった。


 そうして、アレクサンドラは、メリシエルの教育について、学院の教師たちにたくさんの質問を手紙で送るようになる。アレクサンドラもまた、黒薔薇城にいた頃よりも、学院の教師たちに近づいていった。


 こうして、斬橋のメリシエルに関する歴史が書けるのも、彼女たちが筆まめで、多くの文書が残されているからである。



 国王を含めた国家戦略会議。魔術師団学院の学長を兼任する教育担当大臣は、メリシエルの教育のために、パックの維持を強く主張した。


 まだ未熟なメリシエル、エルシアナ、オルセリオンは、ともにあるべきだと。このメリシエルのパックが維持されるということは、自動的に、雁鉄とアレクサンドラも一緒ということになる。


 サリオンドレル家が、一家で放浪する。


 そうなると、孤児院の管理運用をしながら、というわけにもいかない。


 サリオンドレル家は、ここまで、教会からの孤児院の業務移管にかなり尽力してくれた。しかしここからは、孤児院の管理運用を国家戦略会議で引き取る。そのため、孤児院担当大臣を立てることにした。


 サリオンドレル家が、一家で放浪する。サリオンドレル家に放浪の義務を課す。


 なんという、人材の無駄遣いだろう。二つ名を持つ歴史に名を残すレベルの逸材が3人。絶対神の加護持ちが1人。そしてアンデッド最強とも言われるレイス。


 そんな一家に、ただ、国内旅行をさせよというのか。それでは、国家的な損失である。


 そういえば。


 王国には68の孤児院がある。その管理と視察のため、雁鉄は文書でワイバーンの支給を求めていた。


 特にワイバーンの中でも、小型で攻撃力には劣るが、長距離の移動に長けた「南方種」を希望していた。南方種は、通常は、郵便物を含めた運搬に用いられる種だ。


 戦闘用には向かないため、貴重というほどでもない(それでも高価だが)。しかも漆黒の身体からも予想できる通り、南方種は、闇属性ときている。好都合だ。


——サリオンドレル家を王国公認の冒険者として、各地の冒険者ギルドが抱える重大案件に当たらせる。必要に応じて、冒険者の教育を行う。逸材があれば中央への抜擢を推薦する。


 黒薔薇城への帰還は、3ヶ月に1度程度。連続して4日以上の滞在は許されない。


 王宮で開催される国家戦略会議への3ヶ月に1度の出席を義務付ける。各地の情勢、課題、政治などに関する報告を行う。


 主業務ではないが、余裕があるときは、国境の監視も行う。地域的的有事の際には、国王の名のもと、地域軍を「遊軍」として支援する。


 そうしたサリオンドレル家への辞令は、黒薔薇城で開かれたささやかなパーティの場で伝えられた。食後、ワインを飲みながら国王が発言する。


「──そういうわけである。孤児院の件については、余の責において然るべく取り計らおう。約束する。それよりも……やっと、こうして落ち着ける我が家を得たというのに、放浪の務めを命ぜねばならぬとは。まことに忍びない」


 意外にもメリシエルが真っ先に返答した。


「王様。私は、家族と一緒にいられるのなら、それ以上、望むことはありません。それに黒薔薇城にも3ヶ月に1度は戻れます。世界を旅することは、そもそも、オルセリオン様の夢なのです。お心を痛めるべきことは、何もございません」


 加えて、花が咲いたような笑顔で言う。


「それに、ワイバーンを支給いただけると聞きました。楽しみでなりません。学院での進学がならないのは悲しいです。ですが友だちとも先生方とも、手紙を通して、これからもずっと繋がって参ります。ああ、それにしてもワイバーンだなんて。どんな名前をつけようかしら」



もう、こうして第27話までお読みいただいております。嬉しいです。ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


手紙もそうですが、近くにいるから仲良くなるわけでもなかったりします。専門的には、近接性といって、友だちになるのに、近くにいることは有利ではあります。ただ、人間の絆は、それだけでは深まりません。なお、アレクサンドラまで、手紙にハマるところも、僕としては愛らしいです。


引き続き、よろしくお願い致します。

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