第24話 ほんとうに大切なもの
十分に、死ぬ可能性があった。たくさんの人を殺した。後から、震えがくる。
味方の兵たちによる感謝、賞賛、世辞。王国軍を率いた第二王子からの激奨。勲章授与の約束。
どれもが、虚しかった。
雁鉄が、そんなオルセリオンに声をかける。
「危なかったの。我がなかりせば、お主はもうこの世にはおらん。恐ろしい神器よの」
何もかもが虚しい。湖から水が抜けていくような感じがした。
しかしだからこそ、深い湖の底に隠されていた玉もまた、その姿を現すのだろう。
◇
オルセリオンが城を出てから12日後の夕刻。
アーマーの胸に勲章をつけ、オルセリオンが帰ってきた。しかし、下を向き、肩を落として大剣を引きずるその姿は、出陣の時とは明らかに違って見えた。
そんなオルセリオンの姿を遠くに認めた使用人パトリシアが、城の鐘を鳴らす。
「旦那様、ご帰還です! 旦那様、ご帰還です! ご帰還です!」
食事中だった。
鐘の音を聞いたメリシエルは、まず、座っていた椅子を壊した。それから立ち上がり、扉を壊し、走って食堂を出て行った。
石畳では頭から転び、敷石を割った。額から流れる血を拭いもせず、立ち上がり、また駆け出す。直後によろけて身体を石柱にぶつけ、大きなひびを入れた。
それから木製の跳ね橋を踏み抜き、堀に落ちた。石垣の隙間に指を入れ、自力で堀から上がった。4枚の爪が割れ、そこから血が出た。
城までの一本道では、轍に足を取られ、また転んだ。立ち上がり、メリシエルはそこで直立し、目を涙でいっぱいにして固まった。
◇
オルセリオンは、勲章を引きちぎり放り投げた。
そして一つ一つ、アーマーを脱ぎ捨てながら、ゆっくりと城に向かっていく。
雁鉄の召喚を切り、大剣もその場に落とした。国宝のレイピアは、ずっと前にどこかに落としている。
もう、何もいらない。オルセリオンは、そう思った。
そう思った。そのとき
向こうに、ずぶ濡れで血だらけになったメリシエルが見えた。
オルセリオンの頬を、熱い涙がつたう。
オルセリオンは、メリシエルに向かって駆け出す。
メリシエルは、オルセリオンに向かって駆け出す。
二人は強く抱き合う。抱き合いながら、二人は膝からその場に崩れた。
それから二人は、ずっと泣いていた。
これで第2章が終わります。こうして第24話までお読みいただけたこと、とても光栄です。ありがとうございます。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
勇ましく、王国のために命を捨てると宣言したオルセリオンでしたが、そんな単純な話ではありませんでした。死を意識して初めて見えてくることもあるわけです。言葉では伝わらないこと。本当に大切なことは、言葉では伝わらないのでしょう。
引き続き、よろしくお願い致します。




