第22話 初陣へ
とかく戦の多い世界のこと。その日は、すぐにやってきた。
同年9月。
王都の南、20kmの地点に敵国の兵が布陣しているという。その数3,000。王都を陥落させるには少なすぎる。軽い牽制に過ぎないと判断された。
後にわかることだが、この予想は違っていた。新兵器の効果測定。それが、敵国の狙いだった。
とにかくこちらは、牽制への対応として戦略を立てた。王都の離れ砦にて迎撃するのが最善だが、当たり前すぎる。敵国も、それを予想し、何らかの準備をしているはずだ。
軍議にて。王国軍の指揮を取るのは第二王子。砦にて迎撃するふりをして、雁鉄・雁器オルセリオンに遊軍を指揮させ、一気に蹴散らそうとなった。
当然、オルセリオンの実力を測るに良い機会という目論見もある。運よく二つ名を手に入れた、ガキが。いかほどのものか、見せてもらおうと。オルセリオンの敵は、むしろ内部にいた。
◇
その日の朝。日が昇るずっと前の時間。まだ夜虫たちが合唱する中。
アレクサンドラが、自宅城門のところで火打石をカチカチと叩き、
「ご武運を」
と送り出す。
メリシエルは、現実を前にしてただ震えていた。エルミアナは、そんなメリシエルを静かに抱きしめている。エリックとパトリシアは敬礼をしていた。
「メリシエル。大丈夫。雁鉄様と一緒だからね。僕は、ラッキーだよ」
漆黒のフルアーマーに身を包んだ人間に、そんなことを言われてもわからない。大切な人を、今日、失うかもしれない。それなのに、ただ帰りを待っているしかない。
エルミアナは、もう150年を生きている。こういう経験を何度もしている。強いとされたものが死に、弱いとされたものがものが帰って来る。運命など、わからないものなのだ。
「オルセリオン。これでお別れになったら、さよなら。オルセリオンは、素敵な人だったよ。ずっと忘れない。頑張ってきてね」
メリシエルは、このエルミアナの対応が全く理解できない。そこで、問いかける。
「ど、どうして。どうして私とお母さんは、前線に行かないの? どうして!」
「そんなの決まってる。僕は、みんなのことを守りたいんだ。守りたい人を前線に送るなんて、できるはずないよね」
「私と私お母さんは……オルセリオン兄様よりも強いよ! 私が、兄様のこと守ってあげる!」
オルセリオンは優しい声で、メリシエルに語りかける。
「違うよ。メリシエル。君は、強さとは何かが、まだわかっていないんだ。君が前線に出て、死んでいく同級生を見たらどうなる? 今の君はきっと暴走して、この世界そのものを破壊してしまう。それが、強いということかい?」
沈黙。
「メリシエル。なぜ、アレクサンドラ様が前線に出ないか、よく考えるんだ。アレクサンドラ様こそ、おそらく現時点で、世界最強だ。それは、武力だけのことじゃない。アレクサンドラ様にちゃんと教わるんだ。いいね、メリシエル」
メリシエルが泣き出す。エルシアナは、さらに強くメリシエルを抱きしめた。
さて。
右手の大剣は、300年前から雁鉄が愛用する「終焉の黎剣」だ。大き過ぎるので引きずって歩くしかない。超重量を扱えるのは、雁鉄ならでは。
左手のレイピアは、国王から賜った国宝「真誓の細剣」である。オルセリオンが、雁鉄に頼らず、自分の力だけで振るう方の剣だ。
右手が超重量。左手が超軽量。矛盾するものを、同時に内包する。
「ではみなさま。行ってまいります。一人だと心細いですが、こうして雁鉄様と一緒です。どう考えても死ぬはずがありません。安心して、待っていてください」
歩き始めたオルセリオンの背に向けて、メリシエルがたまらず叫ぶ。
「兄様! オルセリオン様! どうか、どうかご無事で!」
ここまで、もう第22話もお読みいただいたことになります。ありがとうございます。嬉しいです。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
強さとは何か。もちろん雁鉄が、その代表例です。しかし、メリシエルは、それがよくわかっていません。なまじ武力があるからこそ、わからない。なまじ美しいからこそわからない。本当に大切なことは、目に見えないのでしょう。
引き続き、よろしくお願い致します。




