表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/73

第20話 当主への序章

 4月。メリシエルたちのパックは、全員、初等科3年A組になっている。


 そして、メリシエルとエルシアナが、使用人と一緒に家事をこなしている裏側では。


 アレクサンドラ、雁鉄、オルセリオンが、サリオンドレル侯爵家に課せられた使命について、ずっと話し合っていた。


 オルセリオンが言う。


「先の不正事件以降、教会の信頼は地に落ちています。教会が敵視してきたアンデッドが、こうして陛下に重用されていることも大きいでしょう。信者も減り、王国では、自らに加護を与えてくれた神を個別に敬う風習が根付いてきているそうです」


 雁鉄は、能力再編の加護により、知力を強化している。甲高い声で


「ふむ。であればやはり、孤児院は教会より分離し、サリオンドレル家単独で管理する方が良さそうじゃな。王国内には、68の孤児院がある。そこに1,552名の子どもたちがおる。職員は、現在183名であるが、これでは足りぬ」


 現場を視察しまくっているアレクサンドラが続ける。


「孤児院の規模にもよるけれど、孤児院あたり4名程度の職員は必須だと思います。職員280名。あと100名は、追加が必要です」


 オルセリオンが、不安そうにいう。


「引き継ぎとして残されているのは、あと3年です。お金のことは何とかするとしても。あと100名もの採用、間に合いますか? 採用だけでなく、採用した職員の教育も必要です」


 知力を高めているのだ。雁鉄が、余裕そうに語り出す。甲高い声で、


「孤児院で保護できるのは、15歳の成人までじゃ。して、この3年で、孤児院を出ていかねばならぬ子どもが150名ほどおる。その子らの中で、成人後の行き先が不安なものを採用し、孤児院の職員として教育すべし。そもそも、行き先が不安なものばかりであろう」


 雁鉄がさらに続ける。


「それに。成人になったからと放り出すのは、全くもって許せぬ行為である。16で両親を失ったアレクサンドラも、身にしみてわかるであろう。今から、出口戦略をしかと固め、各種職業ギルドと連携し、安定した就職先の紹介を進めるべし。就職が決まったら、組織から紹介料をもらう。その資金により、孤児院の財政を強化する。さすれば、ますます、孤児院出身の子どもたちが、より豊かに羽ばたけるようにもなろう」


 アレクサンドラが、感動しつつ加えた。


「孤児院を出た後も。いざとなれば、シェルターとしていつでも戻ってこれるようにしてあげてください。孤児たちには、実家がないんです。だから、孤児院は実家としての機能も併せ持つべきです。お願いします」


 オルセリオンは学者だ。どうしても、色々と不確かなことが気になる。


「夢は膨らみます。しかし、68もの拠点を、僕たち3人で経営できるでしょうか。離れた拠点を視察するだけで、早馬をあてがっていただけたとしても、1年はかかってしまいます。もっと、経営側の人数が必要です。少なくとも、あと8名程度は」


 雁鉄が笑っていう。


「外におるではないか。我らよりもずっと弱いあやつらに護衛を任せておくのは無駄よの。護衛ということにしておき、我らの手足として働いてもらうがよかろう。長期的には、孤児の中より、経営に関連する加護持ちを見出し、引き上げていくが良い」


 当初より、王命によってメリシエルとアレクサンドラには護衛のための衛兵が付けられていた。実際には、監視の意味の方が大きいのは明らかだったが。


 表に4人、裏に2人の計6名。それぞれが主属性か副属性に闇を持っている。それもあってか、みな少し顔つきが悪い。


 アレクサンドラが、その点を心配する。子どもたちが、怖がるのではないかと。雁鉄はそれを受けて、また笑っていった。


「怖そうな輩が、子にだけは優しくある。見た目と中身の差異こそが、人を惹きつけるものよ。だいたい、アレクサンドラ。お主の方が、よっぽど恐ろしいではないか」


 そりゃそうだ。みんなで笑った。


 雁鉄が話を終わらせる。


「して、雁器のオルセリオン殿。方針は、以上のようでよろしいか。よろしければ、早速、右腕の我が文書としてまとめよう。護衛6名に対する具体的な指示も、その文書に基づいて作ろう。懸念点もまとめ、王宮の支援も賜ろう。特に早馬については、心当たりがある。任せてはいただけぬか。以上、如何か」


 オルセリオンは、動揺する。


「なぜ僕が、決定を?」


 雁鉄が続ける。


「いい加減にせい。雁器のオルセリオンよ。いずれは貴殿が、このサリオンドレル家の当主となるのだ。我とアレクサンドラを、安心させてはくれぬか。我らは、すでに死んでいる身。いつまでこうして顕現しておれるか、わからんのだ。それとも、貴殿はメリシエルのこと、守りたくないと申すか?」


 沈黙。


「僕の心はあの日。右腕を失ったあの日より固まっております。しかし、サリオンドレル嬢の気持ちを無視することはできません。僕に、少しだけ時間をください」



第20話までお読みいただきました。ありがとうございます。かなり進みました。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


オルセリオンが、決意します。アレクサンドラと雁鉄は、いつまでこの世界にとどまれるか、かなり不安定な存在です。もしその懸念が現実となってしまえば、メリシエルは身寄りのない子どもになってしまうのです。して、メリシエルの気持ちは?


引き続き、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ