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第2話 橋を壊しまくる少女

 それから数年。


 メリシエルは、あてもなく王国を彷徨っていた。そうして訪れる先々で、木製の橋を踏み抜いては川に落ち、ずぶ濡れになっている。


 加護の強度は、体重となって具現化される。そして加護は、肉体の成長とともに増加することが知られている。


 メリシエルは、神からの強烈な愛を授かってきた。そしてメリシエルは、まだ、加護の効果を調整する術を知らない。


 いつも一人で歩いている美しい少女は、何度も(さら)われそうになっている。しかし誰も、彼女のことを抱き上げることができなかった。加護が強いため、身体が重すぎるのだ。


 メリシエルの重い身体が、今日もまた木製の橋を壊した。


 橋を斬る少女。彼女に付けられた「斬橋ざんきょう」の二つ名が、王都にまで届いた。別に橋を斬っているわけではなく、単に、重すぎる体重が橋の木板を踏み抜いているだけなのだが。


 王国としては、斬橋のメリシエルが他国に流れるのを防ぐ必要がある。彼女が他国に渡れば、その異常なまでの加護の力が、間違いなく軍事的な脅威になるからだ。


 ある、うららかな春の日のこと。昼間の街道。


 王立魔術師団学院からの3人の使者が、まだ9歳に過ぎないメリシエルを迎えにきた。そこでもメリシエルは、馬車に乗ろうとして、体重で馬車をひっくり返して壊している。


 通常、王立魔術師団学院は、12歳以上でないと入学できない。しかし王命によって斬橋のメリシエルは、この学校の初等部に特例で入学させられた。


「お母さん、私、どうなるの?」


 徒歩で王都まで向かうとなると、8日はかかる。しかし馬車はもうない。仕方なく、徒歩で王都に向かう一行。


「学校? 学校ってなに、お母さん?」


 メリシエルが、誰もいない方向に話しかけている。その姿が何度も目撃された。使者の一人が、ついにその疑問に切り込む。


「メリシエルさん。君、誰と話してるの?」


「お母さんだよ。いつも一緒なの。お母さん、とてもキレイでしょ?」


 不自然に冷たい風が、使者たちの間を縫うようにすり抜けていく。


 無邪気な子どもの戯言ではない。メリシエルは、透明な誰かと会話している。しかもその相手は、神聖な存在ではない。悪霊の類であることが、使者たちにもはっきりと感じられた。


——斬橋の加護は、ネクロマンサー。加護を与えているのは、おそらく冥府神オリシス。


 伝書鳩によって、魔術師団学院にその一報が届けられた。まさか、ネクロマンサー、死霊術師とは。なんと不吉な存在を、この王都に呼び寄せてしまったのか。


 しかし、彼女を他国に渡してしまうことはできない。危険すぎる。王国に、繋ぎ止めておかねばならない。猛毒を、保護するのだ。


 ただ。学院の歴史にも、そもそも王都の歴史にも、ネクロマンサーがいたことはない。ネクロマンサーといえば、魔王やそれに準ずる存在として、伝説の中だけで知られている。


 しかも、人類の敵として。


「ちゃんと、気をつけてるって。大丈夫だよ、お母さん」


 使者たちは、もう、生きた心地がしない。


「メリシエル様、一体、何を注意なさっておいでですか?」


 使者たちの口調が、丁寧語に変化している。冥府神が聞いているかもしれないのだ。それは、絶対に機嫌を損ねてはならない神に違いない。9歳の少女相手とはいえ、敬語にもなる。


「うん? ああ、私ね。生き物の精気を食べるの。だからね、ちゃんとコントロールしないと、おじさんたちの精気、間違って食べちゃう。それ、気をつけなさいって、お母さんが」


 急いでメリシエルから距離をとる使者たち。


「おじさんたち、大丈夫だよ! 食べ過ぎると、太っちゃうし」


 そう笑顔で言って、メリシエルは、また木製の橋を踏み抜いた。ワタワタと川底に沈んでいくメリシエル。白い影が、焦ったようにメリシエルの方に飛んでいく。


「うわ! メリシエル様!」「ちょ! 救出、急いで!」「今、お助けします! メリシエル様!」



お忙しい中、第2話までお読みいただけたこと、本当に嬉しいです。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


加護の強度は、体重として具現化される。ここが、本作の大事なところです。なんというか、強さって重さだと思うのです。E=mC2 を持ち出すまでもなく、エネルギーとは、すなわち重さなのです。


それと、アレクサンドラは、魔法、ポルターガイスト(触れることなく物体を動かせる)の達人となっています。ありえないほど重たいメリシエルを、川底から何度も持ち上げたからです。なお、服や靴といった日用品の調達も、このポルターガイストの力で行っています。


引き続き、よろしくお願い致します。

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