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第19話 メリシエルのパック

 12月。メリシエルが、本格的に、寮生活を嫌がるようになった。


 母の付き添いがなくなったメリシエルは、学校で、雁鉄(オルセリオンの義手)に話しかけることが増えた。雁鉄は、メリシエルの保護者の一人に数えられる。保護者同伴は、学院のルール違反だ。


 結果として、雁鉄は常駐ではなく、時と場合に合わせて都度、召喚されることになった。


 それからメリシエルは、日に日に元気を無くしていった。学校では、いつもオルセリオンとエルシアナに、兄さん、姉さんとベッタリしている。


 寮生活で4人部屋をともにするルームメイトを「パック」と呼ぶ。お互いのホームシックは、パックで助け合うのが学院の伝統だ。


 狙いは、実家ではないところに、安心できる模擬的な実家を仲間と作り上げることだ。そうして、実家を離れる心理的な準備をさせていく。


 しかし、メリシエルには、他の生徒の安全上の理由から、1階の4人部屋が個室として与えられていた。つまりメリシエルにはパックがなかった。


 メリシエルには、パック以前に、実家と呼べるものがこれまで存在しなかった。愛着のあるベッド、机、テーブル、食器、暖炉、ぬいぐるみ。そういうものが、メリシエルには一切ないのである。


 学院の校長は、このままではメリシエルは、パックどころか、実家すら正しく認識できないと思い至った。メリシエルを正しく導く。それが校長の使命だ。


 校長は、ここで決断を下す。


 メリシエル、オルセリオン、エルシアナをパックと見なす。本パックに対し、サリオンドレル家からの通学を許可する。


 実は、寮を離れ住み込みで働くエルシアナにも、実家もパックもなかった。校長は、この点について長く問題視してきた。メリシエルとエルシアナをパックにすることで、この問題も改善する。そう考えた。


 後に、この判断が、世界を救うことになる。



 メリシエル、オルセリオン、エルシアナは、城で一緒に暮らすようになった。朝晩、共に登下校する。メリシエルは、どんどん元気になっていった。


 エルシアナは、朝は早く起きてエリック、パトリシアと朝の支度をする。帰宅するとまた、夜の支度に忙しくしていた。


 メリシエルは、そんなエルシアナを見て、自然とエルシアナを手伝うようになった。メリシエルは、実家とはみんなで守る価値のあるところなのだと認識していく。


 アレクサンドラは、この二人の朝晩を手伝いたい。


 しかし、ここで手を出してはいけないと踏みとどまっている。いつか自分がいなくなっても、娘が自分ではない誰かと人生を頑張っていけるように。


 メリシエルとエルシアナは、本当の姉妹のよう。二人のお願いによって、部屋もベッドも一緒にした。


 冬が終わろうとする2月末。校長から、メリシエルとエルシアナにプレゼントが届いた。どちらも同じ、オオカミのぬいぐるみだった。


「わあ! 私、ぬいぐるみ、初めて! エルシアナ姉さんと同じだ! 嬉しい!」


「私も、ぬいぐるみなんて、持ってたことないよ。この150年で、初めてだよ。なんか、嬉しいね。おそろいだ……」


 プレゼントには、校長からの手紙が添えられていた。


 曰く、闇属性の系統にあるオオカミは、常に家族を愛し、家族単位のパックで行動する。メリシエル、エルシアナ。常にお互いのことを、オオカミの家族のごとく思い合うのだ、と。


 このぬいぐるみには、校長が高度な祝福をかけていた。何らかの祝福がかかっていることはメリシエルとエルシアナにもわかった。しかし、その内容までは読み取れなかった。


 メリシエルとエルシアナは、オオカミのぬいぐるみを抱いて、今日も幸せに眠った。



もう、こうして第19話までお読みいただきました。ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


メリシエルとエルシアナ。大切な大切な家族となっていきます。血のつながりはなく、種族も違います。けれど、家族なのです。アレクサンドラが変に手伝わないからこそ、二人の関係性もより深くなっていくのでしょう。アレクサンドラ、切ないです。


引き続き、よろしくお願い致します。

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