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第11話 不浄なる世界

 魔術師団学院で、メリシエルが授業を受けている間。


 アレクサンドラは、王命に従い、経済的な不正の証拠を集めていた。


 王都でも有数の巨大事業者が、売上を実際よりも小さく報告し、税金を逃れる。それを財務局の長官が黙認する。長官は、その見返りに賄賂をもらう。よくある話だ。


 こうした不正をする人間は、他人のことを信頼しない。自分の部下たちも、自分と同じような不正をしているのではないかと疑う。


 だから、こうした人間は、不正ではあっても、その記録はしっかりと行なっている。裏帳簿と呼ばれるものが、ずっと存在してきた理由だ。


 アレクサンドラは、裏帳簿の中から特に大きな不正に関わる部分だけを抜き取り、王に直接届けていた。後に、一斉に衛兵が突入すべき裏帳簿のある部屋の場所に関する情報と合わせて。


 そして。不正に加担していたのは、複数の巨大事業者だけではなかった。


 なんと王都教会までもが、この不正に加担していたのである。王都教会には、納税の義務はない。しかし、寄付金を少なく見積り、経費を多く計上していた。


 特に孤児院の運用費用を大きく報告していた。このままでは子どもたちを救えないと、財務局に泣きつく形をとり、王国から不正に補填をさせていたのだ。


 2月末。冬の終わりだった。


 アレクサンドラは、王都教会の不正調査のため、孤児院を見て回っていた。孤児たちは、考えられないほど劣悪な環境にいた。


 すぐにでも、助けてあげたい。しかし、ここでアレクサンドラが動けば、不正に関わる者どもを一網打尽にする計画が台無しになる。


 アレクサンドラは、心を閉ざし、孤児たちの状況を見て見ぬふりをしつつ調査を進めていた。ある現場を目撃するまでは。


 そして。見てしまった。


 メリシエルと同年代の少女たちが、人身売買の対象となっていた。この寒い冬に薄着で、手足を檻に繋がれ、獣のように扱われていた。


 悪漢が一人の少女の髪を掴み、少女を持ち上げ、少女の頬に向けて手をあげる。


——真に不浄なのは、お前たちの方ではないか!


 アレクサンドラの中で、何かが大きな音を立てて壊れた。その場にいた悪漢どもを瞬時に蒸発させるアレクサンドラ。少女たちは、何が起こっているかもわからず、ただ怯えるしかなかった。


 これまで、感じたことのないほどの怒りだった。アレクサンドラが抱いたこの怒りが、3階の教室で授業を受けていたメリシエルにも完全に共有される。


 アレクサンドラは、王都教会に向け、単独で動き出した。


 同時刻。メリシエルも、急に立ち上がる。


 ああ、サリオンドレルよ。


 親子の瞳から、色が失われていく。


 親子の周囲を、人間からは不浄とされる者たちの叫び声が無数に取り巻く。


 これは冬の寒さとは全く違っている。もっと芯まで届く。むしろ、芯から凍える。


 不浄、不吉、不潔、不穏、不遇、不慮、不信、不和、不調。


——なんとでも、呼ぶがいい。


 瞳を失ったメリシエルの目からは、血の涙が流れている。メリシエルの銀髪が逆立ち、重力に逆らって持ち上がっていく。


 隣に座っているダークエルフのエルシアナが、不浄なる力の全開放を感じ取る。


「いけない、メリシエル! そんな力! 王都ごとなくなっちゃう!」


 通じない。メリシエルは、歩き始める。


 オルセリオンが、躊躇なくメリシエルの体を止めようとする。


「ダメだ、いけない! サリオンドレル嬢。止まるんだ!」


 しかし、正気を失ったメリシエルからは、加護の効果調整が切れている。重すぎるメリシエルを、もはや人間の力で止めることなどできない。


 メリシエルの体に触れたオルセリオンの腕が、徐々に凍っていく。完全に凍ってしまったオルセリオンの右腕、肩から先が「パン」と音を立て砕け散った。


 メリシエルは、石の床を踏み抜き1階へと落ちていく。階下から「ズン!」と重い大きな音が聞こえる。


 恐怖で、ただ身を小さくすることしかできない他の生徒たち。それを他所目に、エルシアナとオルセリオンが教室から走り出ていく。


「ちょっとあなた、その腕、痛くないの?」


「麻痺してるから、今は大丈夫。でも、後で大変だろうな。エルシアナ、治癒系魔法って使える?」


 走りながら、エルシアナが呪文を唱える。すると、薄金色をした美しい魔法陣がオルセリオンの肩のあたりに定着した。


「まあ、応急処置くらいにはなるでしょ。それにしても、変な人ね、あなた」


「ありがとう。ちょっと楽になったよ。で、エルシアナ。メリシエルの行き先、わかる?」


「アレクサンドラ様の方に向かってるみたい。二人とも、不浄の力が強すぎて、見つけるの簡単」


「アレクサンドラ様の居場所は?」


「王都教会の前で止まってる」


「ありがとう。先に行く。エルシアナは、先生方に報告して」


「わかった。でも、あなたに何が——」


 オルセリオンは、窓を突き破り、ありえない速度で、飛ぶように移動していく。オルセリオンもまた、強烈な加護の持ち主だった。そして普段は、効果調整によって凡人のふりをしていた。


 オルセリオンは、大きな器と強大な筋力、その両方を持ち合わせていたのだ。



第1章のラス前、第11話になります。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。嬉しいです。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


まあ、予想できたと思います。魂の器と、ありえない筋力。この二つが揃うということは、あとは魂の召喚です。果たして、成功するでしょうか。


引き続き、よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
腕を粉砕されるそれでも前進する。この描写がとてもカッコいいと思います。むかしからウルトラマンやマジンガーZがボロボロに傷つくのが好きでした。
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