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第1話 拒絶された少女

——世界は、彼女のことを、生まれながらに拒絶した。


 彼女が生まれたとき。


 彼女の身体は氷のように冷たかった。祝福に訪れた村人は、彼女を抱きかかえては、嫌な顔をして、すぐ手放した。


 それでも彼女を離さなかった母は、数日後、原因不明の衰弱によって命を落とした。


 彼女の父は、迷うことなく、まだ赤子の彼女を教会の前に置き去りにした。


 そして教会でさえ、彼女を長くは保護できなかった。


 彼女の世話を任されたシスターたちの体調が、たちまち悪くなったのだ。その原因は彼女にあると、教会の誰もが信じて疑わなかった。


 そうして彼女、メリシエル=サリオンドレルは、魔物の巣食う暗い森に捨てられた。


 しかし魔物でさえ、彼女のことを餌として認識しなかった。赤子の彼女は、小さなバスケットの中で、鳴き声ひとつ立てず、ただじっとしていた。


 罪の意識に抗えなかったシスターが、そんな彼女の様子を(うかが)いにきた。そのシスターが、不思議な光景を目にする。


 メリシエルの周囲に、淡い光が寄り添っていたのだ。その光は、しかし、決して神聖なものではない。どこか病的なもの。死霊。シスターは恐怖し、すぐにその場を後にした。


 それから数年が経った。


 最近、村で、幼い少女が一人で歩いている姿が目撃されるようになった。汚れひとつない薄青いワンピースを着て、ピカピカに磨かれたハイカットの黒い革靴を履いている。


 長い銀髪に青い目をした少女。立ち姿だけで、その高貴さが伝わってくる。貴族なのだろう。そんな少女の噂が、娯楽のない村で瞬時に広がった。


 ある日。


「お嬢さん。こんなところ、一人で歩いてちゃだめだよ。お父さんか、お母さんは?」


「お母さんが、います」


「迷子か。お嬢さん、お名前は?」


「メリシエル=サリオンドレルです」


 迷わずメリシエルを捨てた薄情な父は、婿養子だった。そのためサリオンドレルの家名は、母の死後、メリシエルにのみ引き継がれている。


 メリシエルは、この母方の家名の響きを気に入っていた。なのでここで、サリオンドレルであることを強調している。


「サ、サリオンドレル! あそこの忌子(いみご)か!」


 すぐに村人が集まってくる。そして村人は、それぞれに石や木の棒など、近くにあるものをメリシエルに投げつけ始めた。


「出ていけ!」「ここはお前のいる場所じゃない!」「地獄へ帰れ!」


 石のひとつが、メリシエルの左の(ひたい)に当たった。血が流れる。そう。メリシエルは、暖かい血の通っている、人間だ。


 血が流れても、幼いメリシエルは声ひとつあげない。淡い光が、メリシエルを包み込む。メリシエルは、笑顔で


「うん。平気だよ、お母さん」


 とだけ言って、静かにその村を出て行った。


 古代エルフ語で、メリシエルは「暖かい氷」、サリオンドレルは「影に隠された高貴」を意味する。


 ここは、名に神が宿るとされる世界。


 とはいえ、名に由来する加護の強度は、普通、人生を大きく左右するほどではない。しかし神は、メリシエルとその母に対しては、かなり気まぐれだった。


 物理と矛盾する「暖かい氷」という名を与えられたメリシエルの運命。それはこうして走り出した。アレクサンドラ。古代エルフ語で「守護者」と呼ばれた、死んだはずの母の愛に抱きしめられて。


——世界は、彼女を拒絶した。しかし母だけは、彼女のために、この世界を力強く呪ったのだ。



みなさま、初めまして。


八海クエ(やっかいクエ)と申します。


お忙しい中、まずはこうして、第1話を最後までお読みいただけたこと、大変光栄に存じます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


どうか、よろしくお願い致します。

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