表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

第6話 港町の午后、パンとコーヒー



 港は珍しく風が穏やかだった。

 朝からリーナが「今日はパン焼きすぎちゃって」と笑いながらカゴを抱えてやって来た。

「もしよかったら、これでサンドイッチ作りませんか?」

 彼女の提案に頷くと、カフェの奥が急に台所みたいな空気になる。



 切り立てのパンに、港の市場で仕入れたハーブチキンと野菜を挟む。

 コーヒーは浅煎りの豆を使い、柔らかな酸味を残す。

「こうやって一緒に作るの、なんだか家みたいですね」

 リーナが屈託なく笑い、俺は包丁を持ったまま返事が遅れる。

 その一瞬を誤魔化すように、コーヒーを注ぎながら言った。

「港の灯は、人が集まってこそ灯るんだよ」



 昼下がり、常連になりつつある漁師のタロ爺がやってくる。

「お、今日は飯も出すのかい」

 タロ爺はコーヒーとサンドイッチを頬張りながら、「こういう港の昼飯、久しぶりだ」と呟いた。


 店の外では、子どもたちがカモメを追いかけ、どこからか祭りの準備らしい太鼓の音が聞こえる。

 ——港祭りまであと三日。

 黒潮珈琲館も当然仕掛けてくるだろうが、この穏やかな時間が、何よりの力になる気がした。



 閉店後、リーナが残ったパンを包んで手渡してくれた。

「祭りの日は、お店、どんな風にするんですか?」

「……まだ秘密。でも、驚かせるよ」

 そう言うと、彼女は少しだけ頬を赤くして「楽しみにしてます」と答えた。


 港の空は茜色に染まり、潮紋が袖の下で静かに熱を帯びる。

 嵐の前の、穏やかな午後だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ