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第18話 港が選ぶ一杯
潮喰が沖へ消え、広場には再びざわめきが戻った。
ギルド長が舞台の中央に立ち、声を張り上げる。
「審査は中断したが——港の人々が選んだ一杯を、ここで決する!」
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投票箱が客席を回り、港の漁師、商人、旅人が次々と札を入れていく。
香りや味だけでなく、さっきの潮喰騒ぎで見せた行動も票に影響するのは明らかだった。
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結果発表。
「——波間茶房、百二票! 黒潮珈琲館、九十八票!」
わずか四票差。
広場に拍手と歓声が響く。リーナが両手で顔を覆い、涙をこらえて笑った。
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バルドはしばらく沈黙し、やがてこちらに歩み寄った。
「……港はお前を選んだらしい」
その声に敵意はなく、海の底のような深さがあった。
「だが覚えておけ。港の呼び声は、まだお前を試す」
そう言い残し、黒潮珈琲館のスタッフと共に去っていった。
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人々が帰り始め、夕暮れが港を包む。
潮紋は今までにないほど温かく、まるで港全体が脈を打っているようだった。
リーナが隣で呟く。
「……たくまるさん、この港、きっともっと面白くなりますよ」
その笑顔は、海よりも広く感じられた。