第17話 潮が裂ける時
審査員が得点表に筆を走らせる。
観客のざわめきが徐々に大きくなり、次の瞬間——港の沖で水柱が立った。
高さは灯台をも超え、海が裂けるような音が広場まで響く。
⸻
「潮喰だ!」
漁師たちの叫びが飛び交う。
昨日よりもはるかに巨大で、海面から突き出した影が港の方へうねってくる。
観客が悲鳴を上げ、屋台やブースから逃げ出す。
⸻
バルドがステージから跳び降り、こちらに駆け寄った。
「潮紋の者、今は勝負どころじゃない!」
返事を待たずに彼は自分のブースから銀色の筒を取り出す。
「香りで進路を逸らす。お前は潮紋で奴を引きつけろ!」
⸻
俺はリーナと目を合わせる。
「……行くぞ」
彼女は貝殻を握りしめ、港の縁まで走った。
潮紋と貝殻の光が重なり、海面に青い道を作る。
潮喰はその道を辿るように、ゆっくりと近づいてくる。
⸻
その背後から、バルドの筒から立ちのぼった濃厚な香りが潮風に広がる。
海藻とスパイスの強烈な匂い——港の反対側へ潮喰の頭がわずかに向いた。
「今だ、港の外へ誘い出す!」
バルドが叫ぶ。
⸻
二人で光と香りを交差させ、潮喰を港口へと追い込む。
最後にリーナが貝殻を高く掲げると、潮喰は渦を巻きながら沖へ消えた。
残ったのは、荒い息と汗、そして港の人々の安堵の声だった。
⸻
バルドがこちらを振り返る。
「……借りは返す。だが勝負は終わっていない」
そう言って、再びステージへ歩いていった。
俺は潮紋の熱を感じながら、観客席のリーナを見た。
その瞳は、灯台の光のようにまっすぐだった。