表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

第15話 潮を裂く灯

黒い影——潮喰は、港の方へゆっくりと迫っていた。

 水面が異様に盛り上がり、波の下に無数の目が瞬いているように見える。

 リーナが握る貝殻の光が、潮紋と同じリズムで脈打っていた。



「潮紋の光を港に向けろ!」

 バルドの声が夜風に乗る。

 言われるままに、俺はリーナの手を取り、港に向けて貝殻を掲げた。

 光はひと筋の帯となり、海面を照らす。

 その瞬間、潮喰の動きが一瞬止まる——だがすぐに、渦を巻きながら突進してきた。



 灯台の老婆が低く呟いた。

「豆だ、潮の香りを持つ豆を焙て」

 意味は分からない。だが、港祭り用に残しておいた浅煎り豆を取り出し、

 その場で手回し焙煎器を回す。

 香ばしい香りと柑橘の甘みが夜風に混ざり、港全体に広がった。



 潮喰は渦を解き、まるで匂いに引かれるように沖へ向かっていく。

 最後に水面から覗いた影が、こちらを振り返った気がした。

 やがて海は静まり、波だけが残った。



「……退けたな」

 バルドが短く言った。

「だが、あれはまた来る。次はもっと深く」

 そう言い残し、闇の中に消えていった。



 港が再び静かになると、リーナが小さく息をついた。

「たくまるさん……明日、品評会、勝ちましょう」

 その言葉に、潮紋が袖の奥で温かく脈を打った。



 夜明け前、灯台から港を見下ろすと、朝焼けの海が金色に輝いていた。

 ——今日は港市珈琲品評会、決着の日だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ