第二部 第四章 英雄凱歌3
「ほら、識。アハトアハトだよ」
寧々は識に頼まれて、わずか3日という短期間で高射砲を完成させた。
「こんなもの頼むぐらいだ、戦争ごっこなんてもんじゃないんだろ?」
「母さん、私は言葉を取り戻さないといけないの」
識はジロジロと高射砲に穴が空くほど見る。
「そうかい…、闘う気なんだね」
「止めないでね。父さんは過保護だから止められると思うけど、母さんにまで止められたら私行けないよ」
「止めたいところだけどね、私は言葉を見送ったからな。一度見送ってくるくせに、自分の娘だからといって止めていい理由にはならない」
寧々は腕を組みながら、申し訳なさそうにそう呟く。
「狙撃銃と機関銃を頂戴。あと、言葉が使っていた銃も」
「…わかったよ、ちょっと待ちな」
寧々は飾ってある銃や奥の棚から取り出し、目の前に広げる。
「好きなもん持っていきな」
「ありがとう」
狙撃銃を背中に装備して、機関銃を腰に下げ、言葉の銃を胸ポケットにしまう。
「それで足りるのかい?」
「うん、事前に仕込みは終わらせているからね」
「そう…、あんたも言葉に似てきたな」
寧々は識の頭をくしゃくしゃにしながら撫でる。一通り撫でたあと、識は寧々を書面から見据える。
「行ってきます」
「あぁ、小学生なんだ。18時には帰ってくるんだぞ」
「うん、もちろん」
家を出て、しばらく歩くと、近くにはタクシーが止まっていた。タクシーのドアが静かに開き、ゆらりと人影が現れる。
「父さん、そこをどいて」
「ダメだ。君まで言葉君みたいに――そんなこと、絶対にさせられない」
朽網が焦る表情とは裏腹に、識は小学生とは思えない笑顔を向ける。
「違うよ。言葉はずっと一人だったじゃん。一人で戦わなきゃ行けなかったから、命をかけなきゃ行けなかった。でも私は一人じゃないよ。戦場ではたった一人かもしれないけど、いずれ砕破ちゃんや凛ちゃんがきてくれる。私がするのはそれまでの足止めだよ。死ぬ気なんてさらさらないよ」
朽網を横切ろうと、識は再び歩き始める。
だが、朽網は識の肩をガッと勢いよく掴む。
「父さん、痛いよ」
「ダメだ!私は、私は、もう何も失いたくないんだよ」
「なら、闘わなきゃ。闘って勝ち取らないと行けないんだ。大丈夫、母さんと約束したから、18時までには帰ってくるよ」
「…ッ」
識は朽網に振り返ることなく、走り抜ける。
集合場所がすでに新宿であるとの情報を掴んでいたため、銃を構えながら姿勢を低く保ち、スコープ越しに睨め付ける。
『いいの?親御さんとそんな別れ方で」
「別れじゃないよ。姉さん」
言葉の死後、識の中身に一人の人格が混ざっていた。
『死ぬために、私は異能の扱い方を教えたわけじゃないんだけどな』
「だから死ぬためじゃないよ。私が闘っていれば、二人が気づくだろうし、それに私は元が人造人間だからね。体力切れなんてないんだよ。ん…きた」
歩きながら二人はステージの上へと歩く。
人々の熱狂は凄まじく、まるで英雄の凱旋だった。
『本当にやるのかい?』
「うん、もう周囲には異能で生み出したんだ兵器で囲んだし、目的のためなら切り捨てる覚悟も必要だって、言葉から学んだよ。切り捨てるの自分の命じゃなくて、今回は他人の命になるけどね」
私は今日から大量虐殺者だ。
その汚名を今後も背負っていくことになるだろう。地獄があるのならば、私は容赦なくそこに叩き落とされることになる。
だけど…。
「言葉を取り戻すためならば、私は"怪物"にもなる」
深い決心と共に、識は銃を撃った。




