第二部 第四章 英雄凱歌 1
崇めろ、喝采しろ。
英雄様のお通りだ。
「久しぶりだな、二人とも」
歪な笑みを浮かべながら、言葉と同じ声で偽物はしゃべる。
「すまないな、勝手に死んじまってよ」
あははと笑いながら、気まずそうにはにかむ。
「どういうこと…」
言葉はまだ寝ているはず。
熱海で、紅さんのそばで、生死を彷徨いながら、ベットで横たわっているはずだ。
だが、目の前の人間は、言葉と全く同じだ。そっくりとかじゃなく、存在自体が"同じに見える"。
「さ、砕ちゃん。言ちゃんは…、言ちゃんはまだ寝ているはずだよね」
あまりの事態に凛も動揺している。
認識は私と同じってわけか。
「どうかしら?言葉様はお気に召した?」
偽物の影から、不知火がゆっくりと現れる。
「あなたが変身しているわけでもないのね」
「当たり前でしょ?言葉様に変身するなんて、さすがの私もしないわよ。まぁ…、やってみたことはあるけど。私じゃ解釈違いってやつなのよねぇ」
はぁと不知火はため息をつきながら、偽物の頬を指でつく。
「まぁ、これは及第点ってところかしらね。言葉様が来るまでの時間稼ぎ要員だから、来たら殺すけどね」
「おいおい、冗談きついぜ。俺は本当に歴木言葉だってのによ」
「はいはい、そういうふうに作られているからね」
不知火は偽物よりも手のネイルに夢中になっており、乾かすためにふぅと息を吹きかける。
「偽物作って、何しようってのよ」
「英雄信仰教会の教えを広く説くためよ。言葉様はこの世界の神だから、その神が現実にいれば崇め立てやすいでしょ?」
「なら、なんで人がいないの!」
「そんなの決まってるじゃない。死んだからよ」
「「…ッ!?」」
二人はすぐさま周囲を確認する。
視界を巡らせ、建物の隙間までに注意を払う。
だが、血痕の一つもない。
「正確には殺した?まぁ、間接的には殺してるから、殺してるであってるわよね?」
「俺に聞くなよ、見てねぇんだから」
「間接的に殺した?」
「あなた達がおねんねしている時に、ここであったのよ。人と異能者の戦争がね」
戦争…まさか。
「異能…狩り…だよね。砕ちゃん」
「ピンポーン大正解。ここで大規模な異能狩りが起きて、渋谷のほとんどの人が死んだってわけよ」
「間接的にってまさか」
「そうよ、私が異能狩りを引き起こした人間よ」
「な!どうしてそんなことしたの!」
凛の問いに不知火は両手を返す。
「勘違いしないでよ。起こしたと言っても、武器が手に入るサイトと、指名手配と、討伐に際しての金銭の授受をしていただけよ。異能狩りを引き起こしたのは、大衆の意思よ」
「それは扇動したようなものじゃない」
「何がダメなの?私たちがやったのは広報活動の一環よ。サイトを作るなんて普通の会社でもやることじゃない。私は状況を利用させてもらっただけ。時代の潮流に乗るのは経営者として必要な長所よ」
問題はいろいろある。
聞きたいことも山ほどある。
だけど、重要視するのはそこじゃない。
「なんのために…なんのために異能狩りを引き起こしたのよ。なんのために、言葉の偽物が必要なのよ」
修多羅が与えられる情報に頭を抱えながら、違和感を不知火にぶつける。
「当たり前でしょ?言葉様を神にするためによ」
真顔で不知火は言い張る。
「神は絶望の最中に降臨するもの。だから、わかりやすく世界を乱す必要がある。あとは、言葉様が来た時に、神の座を用意しておいた方が失礼じゃないでしょ?」
「お、おかしいよ。そんなことで、そんな理由で、何百万人も殺したの!?」
「そんな理由?失礼ね、あなた達は見殺しにしているくせに。私はただ、復活するために必要な工程を踏んでいるだけ。それに、神が降臨するためにたった数百万人の生贄で済んでいるんだから、軽い方でしょ」
「イ…、イカれている」
どうかしているとしか思えない。
「イカれているに決まっているでしょ、私たち異能者なんだから。さて、おしゃべりはそろそろいいかしら、私たちはあいさつに行かないとだから」
「待っ」
凛が言葉を発する直前、修多羅は凛の口を手で塞ぐ。
「ダメよ…ここでやり合っても不利なだけよ」
周りがどうなっているかもわからないし、偽物がどれほどの強さかわからない。二人がかりでも不知火に一度負けているのに、一対一で勝てるわけがない。
「賢いわね、いくわよ」
「へいへい、じゃあな」
不知火と偽物は背を向け、悠々と去っていった。
「…とりあえず、殲滅会に行くわよ」
「…そうだね」
亡霊のような都市を背に、二人はまだ見ぬ地獄へと足を踏み入れた。




