表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/86

第二部 第三章 中章 1

今日は修多羅との待ち合わせの他に、もう一つの待ち合わせがある。

半分ドタキャンするつもりだったが、修多羅との話し合いが上手くいかなかった以上、そこに行く事にした。

指定されたマンションへと入り、教えてもらった番号を入力し、中へと入る。二十五階という高さをエレベーターで登り、目の前の部屋の扉を開く。

「古閑、だったか?」

「はい。ようこそ、乙金雄也様」

古閑はゆっくりと頭を下げる。

ホテルのコンシェルジュのように丁寧に。

「私どもの招待を受けてくださり、誠にありがとうございます」

「…あぁ」

英雄信仰教会。

教義も、信仰も、何もかも理解できないが、何がなんでも言葉を復活させようとするはずだ。

「あなたも、言葉様を崇めて…」

「違う。俺はあいつが復活しないと困る」

復活してもらわないと困る。

でなければ、俺はどこにもいられない。

「成程…不知火様は帰ってきませんし…どうでしょう、ここは思い出話をしてみるというのは」

「俺は情報屋だぜ?そう易々と話すかよ」

「だったら、情報を取引するならまず信用が必要でしょ?」

「…わかった。出自が一緒なんだ。俺らは施設育ちなんだよ」

「施設?孤児だったのですか?」

「…まぁ、そんなもんだよ」

孤児…、であることは間違いない。

広義的に言えば…、だが。

「所謂幼馴染みたいなものですね」

「少し違うがな、まぁそんなもんだ」

「へー、羨ましいですねぇ。言葉様と幼馴染なんて」

「まぁ、俺は吐いた言葉の責任をとってもらいたいだけだがな」

救うと言った以上、責任をとってもらわなきゃ行けない。

それが、たとえ言った"本人"ではなくても。

発した口は"同じ"なのだから。

「面白そうな話をしているわね」

バリン!

窓を蹴破りながら、不知火が部屋へと侵入する。

まるで、人型の竜のような姿だ。

「あなたが乙金雄也さんですか?言葉様の知り合いの」

「そうだ、招待したのはそっちだろ」

傷一つついてないか…、どうやら修多羅たちを一方的に倒せる異能者か。

「お帰りなさい、不知火様」

「服がちぎれた…、古閑、代わりの服を用意してくれる?」

「了解致しました」

近くにあったソファにどっかりと座り、異能の解除を行う。生えていたものは全てなくなった後、彼女は全裸を晒す。

「…露出趣味か?そういうのは勘弁願いたいんだがな」

乙金は一瞬だけ視線を落とし、それから舌打ちして顔を背けた。

「あなたに見せてないわよ、言葉様に純潔であることを見せているのよ。穢れのない体というのは、神に使えるには必要な要素でしょ?」

「お前みたいな奴は趣味じゃないと思うけどな」

「頭ピンクなのも大概にしなさいよ、私の思想にそんな邪な感情はない」

そんな言い合いをしている最中に、音もなく古閑が後ろから不知火に服を着せる。

「信仰も大切ですが、お体を痛めては言葉様が悲しみますよ」

「そうね、ありがとう」

不知火は上着へと袖を通し、ソファに足を組み替えながら座り直す。

「んで、殲滅会からこちらに寝返るってことでいいの?」

「勘違いしてんじゃねぇよ、利害が一致しているだけだ。俺は言葉の場所を割り出し、お前らは実働部隊として働く。そして、言葉を復活させる。それで終いだ」

「終いね…、つれないこと言うじゃない」

「ビジネスライクって奴だよ」

黒いイヤホンを指で弾き、不知火へと渡す。

「これは?」

「俺に直通するイヤホンだ。一日だけ時間をもらうぞ、個人の特定にはそれなりの準備ってやつが必要だからな」

「あぁ、それは専門家のあなたに任せるわ」

不知火の言葉を半分聞き流しながら、雄也は背を向ける。

「あ、俺が探すんだ。お前らがやっている異能狩りはやめろ。俺は騒がしいのは嫌いんなんだ」

「あら、人聞きの悪い。私はただ、専用サイトを作って、標的を指名手配しただけ。騒いでいるのは大衆が望んだことよ」

「…そうか。止められないならいいんだよ、その程度人間ってわけだ」

「煽っても無駄よ、私はこの儀式を止める気はないわ」

「…まぁいい、それじゃあな」

雄也はそのまま歩き、部屋を後にする。

「まさか、我々が異能狩りやっていたことがバレていたとは」

「知っていないと、情報屋を名乗れないでしょ。まぁ、わかっていて協力するのは不思議であるけど」

古閑に櫛で髪を解かれながら、不知火は思考を巡らせる。

やがてそれにも飽き、天井を仰ぎ見る。

「まぁいいわ、とりあえず味方に引き入れただけでも御の字としましょう」

「そうですね」

二人は歪な笑みを浮かべながら、割れた窓の外を見る。

「さて、言葉様が降臨するもの、お掃除と行こうじゃない。来なさい」

パンパンと不知火が手鳴らすと、部屋の奥から四人の人影が姿を表す。

「お呼びですか、不知火様」

男の一人が前に出て、不知火の前にかしづく。

「ええ、あなた達は異能者として、一般人を殺してきなさい。古閑、あなたはこいつら以外の異能者を大勢の前で殺しなさい」

「…成程、さすがです不知火様」

古閑は冷酷な笑みを浮かべながら、不知火の意図を察する。

「恐れながら、私にわかるように説明してくだされば」

男は頭を伏せながら、不知火に意図を聞き返す。

「虐殺よ。人間と異能者の。異能者は言葉様が神であるために不要な存在で、ここの人間は言葉様を犠牲にした愚かな劣等種よ。せいぜい無様に殺しあって、死んでもらおうじゃないの」

不知火は興奮のあまり上着を脱ぎ捨てる。

壊れた窓へと近づき、街を見下す。

「さて、第二段階よ。全ては言葉様のために!」

不知火は狂笑する。

言葉の復活と、新たな創世に身を震わせながら。その声は夜空へ響き、暗雲を引き寄せた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ