第二部 第二章 後章2
時は少し戻り、10分前。
「もしもし、凛先輩が!わかりました、向かいます!」
凛先輩が異能者に襲われているらしい。先輩の異能は守る以外できないから、私が行かないとまずい。
「お電話は終わりましたかな?」
陽気な声を出しながら、にっこりと男は不気味な笑顔を浮かべる。
「…さっきからついて来てるとは思ってましたけど、どちら様ですか」
「私ですか?私は古閑と申します。『英雄信仰教会』の幹部です。以後お見知りおきを」
目線を下げて、深々とお辞儀をする。
「私のことを敵だと思ってない…ってところですか」
「敵?あなたが?私の?ハハ、愉快な勘違いとは面白いものですね。私はあなたみたいに異能に頼り切る弱者とは違いますので」
古閑は手品師のように、両手を広げる。
まるで、タネも仕掛けもないとばかりに。
「一般人ってことっすか」
「一般人?いやいや、そんな括られ方をされるのは不本意極まりない。私は言葉様の信仰者ですよ」
言葉様?信仰者?
そう言えば、さっき英雄信仰教会とか言ってたような。
「自分が特別とでもいいたげっすね」
「特別ですよ?少なくとも、あなたよりは言葉様の偉業を知っています」
「言葉様って、その人は何かしたんですか?」
七海の一言を聞いたあと、古閑の不気味な笑顔がフッと真顔へと切り替わる。
「愚かですね。そこまで行くと実に、実に実に実に、愚かですね。まさか、神にも等しき、いや神である言葉様を知らないとは」
言葉。
百道との戦争にも等しい戦いを、ほぼ一人で決着させた讃えられるべき英雄。私は火憐さんに息子の自慢話みたいに何度も聞かされたが、すごいと褒めるたびに悲しい顔になっていた。そして、言葉本人が讃えられることを何よりも拒絶していたらしい。
「私は詳細は知らないですけど、その言葉って人は神なんかじゃないです。ただの人間ですよ」
「知らないなら下手に発言しないほうがいいですよ。そして、私は言葉様が神であると断言できる。なぜなら、この街を実際に作り直していますから」
「…っ!?」
「あなたはどれだけ知っているかわかりませんが、そっち側にいるなら百道との戦争があったことは知っているはず。ならば、街にどれだけの被害があったか知ってるでしょ?」
苛烈なものだと聞いている。
重力の異能を持っていて、東京の都市部が崩壊しかけるほどの戦いだったと。それが本当で、事実であったとしたら、神聖視されるのも不思議じゃない。
「んで、私にはなんのようですか?」
「なんのよう…って、決まってるじゃないですか。異能狩りですよ、あなたを殺しに来たんです」
古閑の殺意のような鋭い意志が、周囲を支配する。
「くっ」
両腕両足から刃を突き出し、周囲の警戒をする。
「それでいいんですか?ならば、これでしまーー」
「待ちなさい」
後ろから黒髪ロングの女がヒールを鳴らしながら現れる。
「古閑、殺すなとあれほど言ったでしょ?」
「恐れながら不知火様、彼女は言葉様を人間などとほざいたのですよ」
「まぁそれは看過できないけど、殲滅会とやらの人質にするって言ったわよね?」
古閑って人も女の方もやばい。
今の私で勝てる気がしない。
「愉快な話をしているわね、私も混ぜてもらうわ」
三人の間に人影が割って入る。
土煙の中で、人影はゆっくりと立ち上がる。
その人影は女性で有り、彼女には2本の角が生えていた。
「修多羅先輩!?」
「ちっ、『修羅』か。面倒ね」
「面倒?今ここで終わらせてもいいんだけど」
修多羅はゴキゴキと手を鳴らしながら、静かに構える。
「ふっ、やめとくわ。互いに荷物を背負っても満足に戦えないでしょ?どうせやるなら、全力でやりあうべきだわ。古閑、行くわよ」
「待ちなさい、このままおめおめと見逃すとでも?」
「大切な後輩を失いたいならそうしなさいな」
「…ッ!」
「行くわよ、古閑」
「はっ」
不知火が背中から翼を広げ、古閑はそれに捕まる。勢いよく羽ばたき、空の彼方へと消えていった。
「吸血鬼みたいね。全く、ああいうやつらとも戦ったことがあるのかしら」
はぁ、とため息をつきながら修多羅は振り返る。
「無事みたいね…よかった」
「あ、ありがとうございます」
柔らかい笑顔だ。顔合わせした時は笑わない人だと思っていたのに。
「おーい、二人とも!」
「凛先ぱ…い?」
ブンブンと手を振りながら、凛先輩は縄で縛り付けた人を引きずっている。
「敵?」
「うん、そう敵」
「そう、倒したの?」
「うーん、異能狩りに色々知ってそうだと思って、殺さないでおいたの」
「そっか」
恐ろしい。実に。
逆らおうなどと思ったことはないが、そんなことは絶対にしない。
「とりあえず、火憐に報告ね」




