第二章 序文 加筆修正版
殺到しろ、おもくままに。
壊れろ、指揮者の指示のままに
異能殲滅会。それは政府公認の特務機関であり、異能者を排するための専門機関である。その関係者の中に、言葉も名を連ねている。
「…なんで呼ばれているかわかってるかな?言葉君?」
「…わかんないっす」
笑顔を浮かべながら、額に怒りマークを浮かべているのは機関長でもある立花寺火憐。俺の直属の上司でもある。
「ほう?わからないと。そんな馬鹿な君に言ってあげようじゃないか」
椅子から勢いよく立ち上がるり、俺の周りをぐるぐると歩き始める。
「なぜ、修多羅砕破を殺さなかったんだい?発現直後の暴走状態であれほどの力を見せた。異能者であれば殺すことがモットーな私たちだけど、あれは異能者の中でも指折りの危険度を持つ。殺さない理由などないはずだけど」
「ありますよ」
「ほう?それはどんな言い訳かな?」
「簡単に言えば、俺の友達だからです」
「…」
予想外の答えだったのか、火憐は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「アハハハ…餓鬼が。ここは組織であり、そこに所属している以上お前は組織人だ。組織のルールに従うのが道理なんじゃないのかい?」
「人道に従うのが人間ってもんでしょ」
「異能者が人道を説くのかい」
互いに睨み合う状況であったが、後ろからぴたりと銃口を突きつけられる。
「火憐さんを舐めてんじゃねぇぞ」
「話に混ざりたいなら素直に言えばいいじゃないですか。貫地谷さん」
「テメェ!」
――ドンッ!
撃たれたはずの弾丸は、言葉の額をかすめて、後ろの壁へと突き刺さっていた。
「銃頼っている時点で、あんたじゃ相手になにないんだよ」
「このガキがああああ!!」
「やめたまえ」
割って入った火憐の声が、空気を切り裂いた。
その一言で、貫地谷の怒気が凍りつく。
「こんなくだらない理由で、仲間を失いたくはない。……私はね」
「チッ!」
貫地谷が舌打ちしながら銃を下ろす。
ようやく空気に漂っていた火薬の匂いが薄れていく。
――どうやら、死体を一つ増やさずに済んだらしい。
「俺がこの組織に属してるのは、利害の一致があるからです。それだけですよ」
静かに、だが突き放すように言い放つ。
「それに……俺を殺すほど、あんたらも馬鹿じゃないでしょう? 唯一、異能を殺せる異能者を」
火憐は何も言わない。ただ、椅子に腰を下ろし、組んだ足の上に手を置いた。
「修多羅には、俺の《言霊》を用いて封印を施しました。リストバンドが異能の発動を抑制している。自分の意思で外さない限り、あいつの異能は目覚めません」
「……で? もし暴走したら?」
火憐の声は、冷たく沈んだ。
「その時は――俺が殺しますよ」
一切の躊躇もなく、吐き捨てるように。
沈黙。
火憐は目を細め、何かを測るように俺を見つめたが、やがてひとつ、肩をすくめた。
「……まあいい。報告と説教は終わりだ。行っていいよ」
「どうも」
くるりと背を向け、俺は部屋を後にした。