第二部 二章 中章2
「審判か。いいカードが引けたね」
ヒッヒと不気味に笑みを浮かべながら占い師はひらひらとカードで遊ぶ。
「陽子、その笑い方治さなかったのか」
「紅も相変わらず綺麗な赤髪じゃないか」
言葉が怪しい占い師に出会ったと言っていたが、まさかこいつだったとは。
「言葉を占ったのよね?」
「あの子か。あんたの息子…だったか。未来は酷いもんだったけど、迷いはなさそうだったよ。そんなに私を睨んでもしょうがないじゃないか、未来は"私達"でもねじ曲げることはできないだろ?」
「チッ、確かに。それはそうよね」
世界の運命は決められても、個人の運命まで決めることはできない。
「というか、どうせあんたは傍観するだけでしょ?占い中毒め」
「なんてことを言うんだい。私の趣味で能力の一つなんだから、今のは人格否定並の冒涜だよ」
「人格ねぇ…」
陽子の飄々とした態度に、また苛立ちが湧き上がる。
くそ、一発ぶん殴りたい。
「んで、息子の軌跡を辿ってどうするんだい?」
「私は、息子に何もしてやれなかった。その痛みを、ちゃんと知っておきたいのよ。どれだけ“母親失格”だったかを…ね」
「ふーん、あんたもそれなりに"母親"になってるってわけね」
母親になる…か。
言葉は私をそう認めてくれるだろうか。
五年も目を離し、その前も…。
「やっていることを後悔してるだけマシだよ。まだ、取り戻そうとしているんだから」
「けど…」
「大丈夫さ、あんたの心配事はいずれ解決するよ。他でもない私が言っているんだ、安心しなよ」
「…」
これで少し安心するんだから、少し嫌だ。
「とりあえず、あんたがやるのは"何もしない"ことさね。あんたの気分で私まで巻き添え食うのは勘弁だよ」
「わかってるわよ、それぐらいの分別は弁えてるわよ、じゃあね」
紅は立ち上がり、占いの館を後にする。
「さて、次は…」
凛ちゃんにもあってみたいけど、まずは学校に行くか。おそらく、まだ働いているはずだから。
「はぁ、それにしても色々変わったわね」
街は様変わりした。
建物はどことなく歪んでいるが、それでも建物として"成立"している。
「あんまり遊ばなかったのね」
何となくのイメージで組み上げたことはわかった。
そして、それをしたのが言葉であることも。
「次があるといいが、その時は色々行こう」
私はそれまで母親としての何たるかと、子育てのための本でも読み込むとしよう。
そんなことを考えながら、紅は学校へと向かう。
バレないように校門を乗り越え、高校三年生になった言葉の机を触る。
その机は少しだけ埃かぶっており、使っていないことは明白だった。
「言葉の机で何してんすか、紅さん」
「ん?あぁ、真菰か」
「白水って呼んでくださいよ。自分でつけといてあれですけど、女ぽくて嫌なんすよ」
白水はゆっくりと近づき、机と手を添える。
「あいつ…頑張ってましたよ」
「そう、勉強はできていたの?」
「テスト自体は。でも、普段は褒められたもんじゃありませんでしたよ」
「不良なんでしょ?」
「いえいえ、空前絶後の不良ですよ」
思い出すように白水は目を閉じる。
かつての問題児を。
本来はそこで寝ている幻影を。
「…そう…そうか」
我が子の成長を見届けることができなかった。
私が見ていたのはあくまでも偶像であり、実像ではない。
「真菰、私はダメだな」
「そんなことないっすよ。涙を流すほど思っているんですから」
「…くそ」
涙を流すことしかできない。
涙を流してやるしかない。
全ては後の祭りなんだから。




