第二部 第二章 中章 1
「…暇」
休日ですることもなく、たまには散歩でもしようかと歩いてみたけど、いつも通りの景色が広がっているだけ。
「1人になると、唐突にやることないなぁ」
砕ちゃんも色々疲れているだろうし、連絡するのは少し気が引ける。
ぼーっと公園で座っていると、目の前で女性が転けた。
「大丈夫ですか?」
流石に無視をすることができず、声をかけてしまった。
「あ、はい。ありがとうございます」
女性はゆっくりと顔を上げる。
その顔はーー。
「あの…もしかして、ディーバさん?」
「は、はい。ディーバ…じゃなくて、神代歌です。歌って呼んでください」
何だろう、あの時のような"異常"な感じが一切ない。異常どころか普通に見える。
「それよりも、足…大丈夫ですか?」
「そ、それが壊れちゃって」
ヒールが壊れてしまっている。
これじゃ、まともに歩けない。
「家までおぶって行きますよ。私、力はそこそこあるので」
「あ、あの、そんなことよりも、何で私を恨んでいないんですか?」
「うーんと、なんて話せばいいんだろう」
人類の反逆者。
異能狩りの発端の1人と言ってもいい彼女。
だが、今までいろんな人と戦ってきて、"悪いこと"をしているからと言って、悪人と決めつけるのは早計だと感じた。
少なからず、"異能"を覚醒させているんだから。
「いいんだよ、気にしないで。とりあえず、歌さんをどうこうする気はないから」
「いや…でも」
「"人の好意はに遠慮をするのは失礼"って、言ちゃんも言ってたんだ。だから、気にしなくていいよ」
「あ、ありがとうございます」
歌は戸惑いながらも、凛の背中へとおぶさる。
「よし、じゃあ行きましょう」
凛は歌をあっさりと持ち上げ、ゆっくりと歩き始める。
「今、1人で暮らしているんですか?」
「い、いえ。母との2人暮らしです」
「そうなんですね、私も家族と暮らしてて」
「家族…そうですか」
「「…」」
会話を続けたいけど、なんて質問していいんだろう。下手に色々聞くと、事件聴取みたいになっちゃいそうだし。
「お、お母さんはどんな人なんですか?」
「優しい人です。前はずっと死んだような顔をしていたのに、今では明るくて優しい人です」
「仲良くなったんですね、よかったです」
「はい、色々ありましたが」
色々あった。
それは、彼女の歌にも言えることなんだろうか。
「あ、ここです。私の家」
考え事をしていると、どうやら着いたみたい。
そこは、何の変哲もないアパートだった。
「お茶でも飲んでいきませんか?」
「じゃあ…少しだけお邪魔します」
促されるまま部屋へと入ると、そこには1人の女性が洗濯物畳んでいた。
「おかえり…って、あなた誰?」
瞬時に胸元へと手を入れる。そこには、キラリとひかる刃物が僅かに見える。
「歌さんを家へと送っただけです」
「そうだよ、ママ。この人は私と知ってても何もしなかったよ」
「そう、でも警戒はさせてもらうわ。娘を失いたくはないからね」
「…わかりました」
近くの椅子へと腰をかけ、出されたお茶へと口をつける。毒を盛られるという心配が一瞬過ぎったが、それこそ失礼だと振り払った。
「あの、ママさん」
「神代葵よ」
「あ、葵さん。歌さんはなぜあのようなことをしたんですか?」
ピリッと空気が張り詰める。
わかっていた、この問いがダメなものだと。
でも、聞かないといけない。
「…そうね、気になるわよね。……百道って男、知ってるでしょ? あいつが、私の命と引き換えに、歌に命じたのよ。“歌え”って」
「…だから、あんなことを」
絶望の歌。
あれは歴史の教科書に載るような大災害の一つ。昔であれば、聖女ジャンヌダルクのような称賛を浴びた彼女だが、それら全てをひっくり返した事件。
それが現在では、稀代の大罪人として記録されている。
「慰めはいらない。してしまった事は変えられないし、それが大罪であることも事実。言い訳もする必要はないけど、私は歌が魔女狩りのように殺される可能性があると思うとね」
私には裁く権利がない。
むしろ、情状酌量で許される気もしてくる。
だけど、それは主観の問題で、葵さんのように客観的に見ればそのようになると思う。
私には、そこまでの想像力はない。
でもーー。
「私は何もしません」
「どういうことよ」
「確かに、大罪人かもしれません。ですが、私には歌さんだけが悪いとは思えない。だから、私は何もしません」
「そう、ありがとう」
葵は安心したようにフッと笑う。
正義、倫理。
人それぞれに視点が存在すると思う。
だから、私は私の正義で歌さんが悪くないと選択する。
間違いだとしても、それを曲げはしない。




