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第一章 後章2

2人が戦っている。

互いに激しくぶつかりあいながら。

砕ちゃんは憎しみに囚われて、言ちゃんはそれを取り払おうと頑張っている。

言ちゃんが話すたびに、砕ちゃんは悲しそうな顔をしている。

「…やめてよ…やめてよ2人とも」

何が起こっているか私にはわからない。

砕ちゃんには角が生えて、言ちゃんは何故か血だらけになっても生きている。

私だけ外野に置かれていて、何一つとして意味がわからない。

でも、だからと言って。

友達2人が殺し合うのを見過ごすことはできない。

2人が止めないなら、私がやるしかない。

「…私が…止めないと」

全身の痛みに耐えながら、凛は校庭へと向かう。

殺し合いをやめさせるために。



そこからは激しい乱打戦だった。防御などかなぐり捨てた無様な戦い。そこに拳法家などおらず、殴り合う二人の鬼がいた。

「非天無獄流・二牙白胴」

「『非天無獄流・二牙白胴』」

互いが技を出し合い、互いの肉体が交差する。

だが、差は明瞭だった。

劣勢だ。それも圧倒的な差で。

技術面において言霊に頼り切りのため、及ばないことは当然ではあるが、問題は肉体強度だ。

どう考えても修多羅の肉体は人間のものではなくなっている。時間が経つほど強靭になっていって、時間が経つほど力は増していっている。おそらくだが、修多羅自身の体が修羅という未曾有の化物に置換されていっているわけか。

「…時間制限までつくなんて…クソゲーかよ!」

思案を振り切り、拳を握る。

「非天無獄流・三骸流轉」

「『非天無獄流・三骸流轉』」

ビキビキィ!

また拳にヒビが。いくら再生速度を早めたとしても、こんな息つく間もないような高速戦闘では無理やり繋ぎ合わせるのが精一杯だ。

「『非天無獄・・・・」

「遅い!非天無獄流・四壊波星(しかいはせい)!」

両手両足を同時に撃たれ、弾かれた体は完全な無防備を晒す。

やばい、一旦距離を。

「吹っ飛ーー」

言葉を紡ぐことができなかった。

いや、許されなかった。

「非天無獄流・五雲盛苦(ごうんじょうく)

五箇所の急所を瞬時に打ち抜き、強制的に意識を刈り取る。

「さらに、非天無獄流・六昆星乘(ろっこんせいじょう)!」

顎を打ち上げ、四肢を粉砕し、最後は鳩尾へと強烈な一撃を叩き込む。

「まだま…だぁ」

立ち上がる。

何度殺されようと、何度非情になられても。

「俺は…お前を見捨てない」

殺さない。殺したくない。

「…これで終いよ。非天無獄流・郝冥九光(かくめいきゅうこう)

静かに俺の体に九つの穴ができる。

一切の挙動を許されず、俺は無様に棒立ちになる。

「…ガハァ」

ラーニングで分かったことがある。非天無獄流は十の型で形成されている連撃技だ。どれをとっても人体を破壊する必殺と言ってもいい技だが、十の型はそれらを凌駕する絶殺技。九の型までを放ち全身を活性化させることで、初めて成立する最強の技。

「非天無獄流奥義・十握剣(とつかのつるぎ)

神速の手刀によって九分割され、最後は心臓を刺し貫かれる。

「……ガフッ」

口から血が溢れ、もはや声を出すことなど不可能だった。

「この技を出したのはあなたが初めてよ。父さんでもこの技を受け止める前に負けたから」

成程。通りで強いわけだ。

親子二代という短い歴史であるけれど、一つの体系における完成形というわけだ。半端な俺が止めようなどと烏滸がましいな。

「…まだ…だ。俺…は」

「心臓貫かれながらでも生きてるの?まるでゴキブリね」

修多羅は貫いた腕を引き抜き、ぽいとゴミのように捨てる。まるで、興味など失ったように。

「奥義までできたから、もう満足よ。私、あのゴミどもを殺さないといけないから」

どういうわけか、再生が追いついていない。

どんな死でも治ったはずだ。けど、今回は──違う。ここまで効果的に壊されると、異能にも影響を及ぼすのか。

「待…て…待て…よ!俺が…俺はまだ死んじゃねぇだろうがよ」

肉が剥き出しの足で立ち、ズタズタの腕で上半身を支える。

「そんな状態で何ができるっていうのよ」

「そうだな、会話ができるな」

「何?つまらないジョークで私を楽しませてくれるの?」

「……なぁ、修多羅。本当に、それでいいのかよ」

「いいわよ。私のこの体はいずれ自壊する。でも、その代わり私の世界を道連れにする。学校もお前も父さんも何もかもを破壊する」

「そうかい、ならさきに俺を殺せよ。修多羅に壊されて、異能の効きがかなり悪いんだよ。今であれば、俺を殺せるんじゃないのか?」

「そう、その挑発乗ってあげる。死ね」

ここまでーーだな。

諦めかけたその瞬間、人影が俺と修多羅の間に割って入る。

「ダメだよ!」

凛は涙ながらに訴える。

「凛、どきなさい」

「嫌だ」

「凛、逃げろ」

「嫌だ!」

「どきなさいって」

「嫌だ嫌だ嫌だ!絶対に嫌だ!」

凛は首をブンブンと横に振る。

「なんでなの、なんで砕ちゃんは殺そうとするのよ。なんで言ちゃんは死のうとするのよ。おかしいじゃない、そんなのおかしいよ」

凛は絶叫した。体の痛みに耐えながら、修多羅をそっと抱きしめる。

「何が起きてるかわからないけど、砕ちゃんがそうなったのは私が傷ついたからでしょ。私大丈夫だから、だから…だから帰ってきてよ!」

「何してるのよ、さっさと病院行きなさいよ!こんな死に損ないの二人相手してどうするのよ!」

「友達じゃんか!私の!友達でしょ!二人とも!」

泣きながら、彼女は訴える。

「心配するよ、そんな傷だらけだったら。怒るよ、喧嘩してたら。止めるよ、だって間違ってるもん!」

凛はすごいな。俺は修多羅を戻すことをどこかで諦めていた。けど、彼女の思いが修多羅を揺らしている。

「なんでよ、もう私、人間じゃないのに…」

「そんなことな…」

「あるのよ!肉体はもう人間じゃないし、私の心は人を傷つけて当然だと思っているのよ」

「それこそ、そんなことないな」

体は見事完全修復し、やっとまともに立ち上がる。

「なら、なんで凛が来た時止めたんだよ。お前が化物とやらなら、そのまんま振り抜けただろうがよ」

「…っ」

「ねぇ、帰ろうよ。また一緒に本を読もうよ。私知ってるよ、砕ちゃんは優しいんだから、もうそんなに…自分に怒らなくていいんだよ。許してあげてよ」

「…私は、私は」

「無理なら私が許してあげるよ」

凛は修多羅の頭へと手を伸ばし、頭を撫でる。

「もういいんだよ。ありがとう、砕ちゃん」

「うぅ…うぁぁぁぁぁ」

修多羅は膝をおり、泣き出す。

「…すげぇな」

理解のできない人間。理解者のいない人間。

その両方を得ている人間を「化物」と人は押し並べていうが、彼女はまだ片方しか得ていない。

凛という理解者がいる以上、修多羅は化物で居続けられない。

振り下ろそうとした拳を下ろし、修多羅は俯く。

「…帰る…帰るわよ」

どうやら解決したようだ。その証拠に修多羅の角が消えた。後片付けが面倒なのが気がかりだが、それでも最悪に至る事は無くなった。

「あー、流石に今回は疲れたぁ」

俺は大の字で倒れ空を仰ぎ見た。

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