第九章 サビ 2
一体どれだけ歌うんだろう。
私は疑問に思いながら、その存在を消費しながら、私は歌う。
「…もう…やめ…なさい」
絶望に飲まれながら、娘のためにと正気を保ち、博士はディーバへと這いずりながら近づく。
「歌わなくていいの…もういいのよ」
何か…誰かの声が聞こえる気がする。
でも、もう誰の声かわからない。
私の異能は、私の記憶を奪い去り、私の存在を圧縮していく。
あぁ、どうしたらいいんだろう。
私の歌は絶望となって、悲劇となって人々を支配している。このライブは全国中継しているため、画面の向こうではどれだけの被害が出ているか想定もできない。でも、私はそれでも歌う。
歌わなきゃ…。
あれ、なんのためだっけ。
誰かのためだったはず。
誰かを誰かから救うためだったはず。
「…止めるのよ!歌わなくていいの!ディーバ!」
歌わなきゃ。
歌えなきゃ。
歌うしかない。
私の異能は発動して仕舞えば、終わらない。
終わらせることはできない。
「ディーバ!」
博士はディーバを抱きしめる。
無様に、されど確かな愛情を持って。
不器用な愛を持って。
「マ…ま…」
歌の合間にディーバはうめく。
「お願いもうやめて。私は…私はあなたになんてことを…私は人でなしだった。でも、歌って楽しそうなあなたを好きになった。だから…歌を…自分の歌を汚さなくていいのよ!」
何を言っているんだろう。
私の口も、まるで他人のものみたいに勝手に喋っている
私は機械、私は作られた存在。
母なんて、そんな存在いるわけないのに。
そんな、人間らしいものなんて存在しないのに。
「…ま…ま」
「そうよ、私はあなたのママよ!だから…だから帰ってきて」
「…ママ!」
「ディーバ!」
ディーバは震える指先を博士の背に回し、初めて“誰かに触れた”という実感を得た。
喉が詰まり、呼吸が震える。歌声は、もう戻らなかった。
「ディーバ、よかった」
「ママ…ただいま」
世界が人間と認めたかのように、親子の2人に光がさした。




