第八章 Bメロ
私は大歓声を前にして、ステージに立つ。
人々は私に注目し、熱狂は止まらない。
「みんな!ディーバだよ!」
「ディーバ!ディーバ!」
歌姫のために、歓声は止まない。
「みんなありがとう!」
手を振り、私は応える。
人気者として、刹那の希望として。
幕を開け、幕を引く者として。
劇場をクライマックスへと導くために。
偽りの言葉。
偽りの思考。
偽りの体。
この全てを持って人々を欺く者として。
「おおおおおおお!」
私の異能は《歌》。
歌詞の意味を直接人の心に届けることができると言う異能者。
「ディーバ!君は希望の象徴だ!」
人々はディーバを希望と目撃する。
かつて、人々を導いたジャンヌダルクのように。
「みんな!今日は新曲があるんだ!」
私は今更気づいた。
私はずっと違和感だった。
嘘をつくたびに"何か"から遠ざかっていく感覚。
あれは、愛だ。
博士への愛を遠ざけていたのだ。
あぁ、気づくのが遅かった。
あまりにも。
「じゃあね…ママ」
涙を浮かべ、涙をこぼしながら彼女は言葉を紡ぐ。
だが、観客は絶望への憂いとしか見ない。
「聞いてください、絶望の歌」
よかった、これでも嘘をつく必要がない。
歌い始めて人々はようやく気づく。
彼女は人々を人類を裏切ったのだと。
その絶望は波及的に広がり、世界へと轟く。
空が暗転し、人々の目から光を奪う。
彼女は今希望の歌姫から絶望の歌姫へと反転する。
歌いながら必死で謝る。
だが、これが私の存在意義。
私の全て。
あなたたちを、人類を、壊すためだけに生まれた存在。
愛した人のために、愛している人を救うために、世界を壊す。
長いイントロが終わり、AメロBメロが終わり、サビが始まる。
勢いづいた歌は止まらず、世界は絶望へと進む。
さぁ、絶望の幕開けだ。




